第19話 『僕の願い』

「なんだ……私は、今回ひどい倒され方をしたような」


 堕転した間のことはすっかり忘れ、ラザニナ様は元の女神様に戻ったようだ。

 ――本当に、後遺症がなくて良かったですね。


「ラザニナ様、今回の件あまり思い出されない方がよろしいかと」

「そ、そうか?」


 配下の竜にそれとなく諭されると、ラザニナは僕達へき直る。

 服が、少しはだけた。


「ま、どんな倒され方でも大義であった勇者よ。では、女神ラザニナが今回の褒賞を与えよう」


 ラザニナは歯を見せて笑い、僕に訊ねた。


「君は、もう願いを決めているか?」

「決まっています」


 僕は頷く。

 願いは決まっていた。


 ――マスター?


 僕はセリをはめる手をラザニナに差し出して願う。


「ラザニナ様、僕がつけているこの指輪。セリの願いを叶えてください」

「ほぉ……」


 ――ま、マスター! そ、そんなもったいないです!


 感心したような声を出すラザニナ様とは対照的に、セリは慌てた声を出した。

 けど僕は聞かず、セリに指を添わせる。


「ほら、僕一人じゃここまで来れなかったと思うし。ありがとうの気持ちを込めてね」

 ――しかし、マスター! 私は


 僕は指からセリを外した。

 ずっと聞こえていた声が聞こえなくなる。

 それから、セリをラザニナ様に預けた。


「つければ彼女の声が聞こえます」

「よいのか?」

「はい。それに今の僕の願いは、すぐ家に帰って寝たい。それが一番ですから」

「そうか」


 笑って答えた僕に、ラザニナは微笑んで返した。


「ならばサービスだ。その願い、この指輪の願いと共に叶えてやろう」

「え?」


 僕が訊き返す間に、ラザニナは指にセリをはめ「ふむ」と頷いた。


「…………わかった。君達の願い、確かに聞いたぞ」


 その後。


「えっ? ちょっと!」


 僕は……ふっと意識を失った。

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