第17話 間違いだらけの『ラストバトル』

『今の砲撃はなんだっ!』


 突然の砲弾でラザニナが狼狽えた僅かな時間に、僕達は覚悟を決めた。


「できるかな? わざと誤字して、それで攻撃仕様しようなんて」

 ――さっそく幸先の良い誤字ですね、マスター。貴方の誤字による攻撃はだそうですよ。


 僕達はにやりと笑う。


「なら、試してみようか」

 ――はい、マスター。威力の高そうな誤字を狙いましょう。


「もっと具体的に言って!」

 ――ひたすら、執拗に相手の状況を描写しましょう! エシュルダ様の時もそうでしたが、より相手への影響力が強い誤字になる可能性が望めます!


「それ採用!」


 セリの提案にのった途端。


『貴様ら先程から一体何をほざいているのだあっ!』


 ラザニナは土星怒声をあげ、僕達に向かって前爪を振り上げた。

 だが。


『なっ!』


 次の瞬間、彼女は振り上げた爪の先にを持っていた。

 ラザニナの巨体が巨岩の重さを支えきれず倒れる。


「あれ、本物じゃないよな?」

 首にヘビを巻きつけた僕に、セリは答えた。


 ――偽物……いえ、マスターの形象けいしょうの産物、投影物という方が適切かと。


『ぐぅっ、この岩はなんだあっ』


 ラザニナは投影物である土星を爪で砕き、苛立って粉と葉をきだす!


『があっ! なんだっ、体の自由が利かぬっ』

 ラザニナは急にどこからか現れた箒を両爪で掴むと、知らぬ間に湧き出た謎の粉と大量の葉っぱを掃き始めた。


「これで、時間は稼げるかな?」

 ――ええ、威力はありませんが。


 自棄を起こして掃除へ勤しむラザニナを横目に、僕達には息をつく暇が訪れた。


「セリ、ちなみにクールタイムはあとdon’t cryどんくらい?」

 ――約25分です。

 僕は涙を堪え、苦笑を浮かべる。


「これ……誤字で倒すのとクールタイムあけに酢KILLスキルで倒すの、どっちが早いかな」

 ――その問いはナンセンスです、マスター。いずれにせよ私達は、25分という時間を誤字で戦わねばならないのですから。


だな

 と、僕が棚に手をつきセリに返事をしていると、掃除を終えたラザニナがこちらに都心突進してきていた。


『貴様ぁ! この私に掃除をさせたなっ! よくも私に下女の真似事などっ』


 けど、勢いよく向かって来るラザニナの周りに、突如として銀行や駅、小ビルなどの様々な建物が生え始める。


『ぐっ! なんと邪魔なあっ』

地下ちか、高そうな一帯だな」

 ――ですね。足止め成功。この調子でいきましょう、マスター。


 と、セリは言うが、本当にママままでいいのだろうか?


 ――お母さっ、いえ! マざっ、スター! どうなさいますか!


 どうやら、セリは誤字に影響され、僕の呼び名を間違えたらしい。

 ――あの……忘れてください。

「呼び間違えくらい気にするな。僕だって小学生のこ、ろ……?」


 この時、僕の脳内に凄まじい電撃が走った。


 ――マス、ター?


 そうだ……呼び名だ!


「遠回しに攻撃するより、こっちの方がよっぽど勝算がありそうじゃないか!」


 僕は不敵に、にたりと笑って見せた。

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