第16話 堕女神『ラザニナ』
転移した先で、僕は恐怖した。
「ラザニナ様。貴方様と戦うに相応しい勇者が参りました」
僕達を案内した竜……彼は、目の前にいる超巨大な竜をラザニナと呼んだ。
『ほう?』
ラザニナと呼ばれた竜の一言で、ダンジョンが揺れる。
さっき戦った竜もデカかったが、彼女はその5倍はデカかった。
「なあ、セリ?」
僕はもう、誰に聞かれるとかお構いなしにセリに声をかける。
「僕はてっきり。堕女神は心が悪なだけで、見た目は普通の女神と一緒だと思ってたんだけど」
――マスター。堕女神は必ずしも人の姿でいる訳ではありません。しかし、これは……ラザニナ様、あまりに大きすぎます。これが
セリの声にも恐怖が滲んでいた。
直後、ラザニナが巨大な口を開け、歯を見せて笑う。
『お前が、勇者か?』
その声は、話すだけで天変地異でも起こせそうな程大きかった。
スキルもなしにこれと戦うのは……無理だ。
「セリ……クールタイムは、あと何分かな」
絶望が声に滲む。
――27……いえ、28分はあります。
内から聞こえる声に、耳を塞ぎたくなった。
『では、始めよう。我が女神に戻るか、尚魔王として在るのか決める戦いを』
次の瞬間、もう戦いは始まったと言わんばかりにラザニナは僕達に襲い掛かった。
ビルを思わせる彼女の爪が、真上から降って来る!
――マスター! 走って!
僕はラザニナに背を向けて走り、攻撃を回避しようと試みた。
直後に地を砕く轟音!
僕はすぐ背後で地震が起きたと思った。
勝てる気が全くしない!
『どうした勇者! 戦わねば勝てぬぞ!』
ラザニナは笑い、赤ん坊がハイハイしながらアリを潰そうとするみたいに僕を襲った。
その間、僕は必死に走り、ひたすら逃げに徹する。
けど。
「こんなのいつまでも続かないって!」
――叫ぶ暇があるなら逃げてください! クールタイムはまだ25分あります!
呼吸が荒くなる中、セリに現実を突きつけられる。
スキルを使っても勝てるかわからない相手に、今の僕があと25分も逃げられるだろうか?
むりだ。
抱えきれない敗北感が僕を襲う。
でも。
――マスター! 止まらないで! 走るんです!
セリの声が聞こえれば、体は動いた。
彼女の声で、まだ何かしてみようと思えた。
僕は走りながら、息を整えセリに訊ねる。
「セリ! ラザニナから、身を
数秒後。
ドンッという砲音が響いた。
そして。
『ぎゃああっ――』
けたたましい竜の悲鳴。
――マスター……「潜める方法」ではないでしょうか?
セリの力無き誤字修正と。
――まだ、戦う術はありそうですね。
希望を告げる声が聞こえる。
僕は、突如として出現した発射直後の砲筒を見ながら彼女に頷いた。
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