第15話 『偉大な竜との誓い』

 腕が痛むのか竜は叫び、大口開けながら体液をまき散らす。

 奴の巨体が一歩二歩と後ずさっていく間に、僕はセリに礼を言った。


「セリ、ありがとう。君のおかげだ」

 ――いいえ、お礼など。ですが、スマホにはこんなことできないでしょう?


 彼女の声がとても誇らしげで、僕はつい笑ってしまう。

 そして、僕達は再び竜へと向き直り、剣を突き付けた。


「まだ、やりますか?」


 僕が問いかけると、竜は低く唸る。

 竜とは言え、言葉を交わせる相手を殺すのが僕はまだ怖い。

 殺さずに済めばいいのにと考えながら、僕は声が震えないように竜へ言葉を紡いだ。


「貴方は、勇者なら堕女神に挑むのを許すと言ってた。なら、その深い片腕の傷で、僕を勇者と認めてほしい」

『……何、だと?』


 静かに怒る、だが痛みを堪える声。

 奴も、敗北を全く認めていない訳ではないと思い、僕は畳みかけた。


「僕には挑む権利がある筈だ。そして、貴方に誓う。必ずラザニナを女神に戻してみせると」

『我に、誓うだと?』


 僕は頷く。


「貴方はラザニナが唯一傍に残した人だ。彼女が元に戻った時、貴方がいないと、きっと悲しむ」

 ――…………マスター、良いお言葉だと思いますが『いな糸』ではなく『いないと』です。


 顔をうつむけ僕が赤面していると、突然竜の体が輝き、奴……いや、彼は人間の姿になった。


「力は示された。我は貴方を勇者と認め、我が主の元へ案内しよう」


 思わず、顔がほころんでしまう。

 そんな僕を嗜めるように、竜は告げた。


「我に誓った言葉、決して違えるなよ?」





 ――マスター、今よりクールタイムです。30分は戦闘を避け、誤字に気をつけてください。


 人の姿となった竜の後をついて歩くこと数分、セリがクールタイムに突入した。

 わかったと僕はセリに答え、ラザニナの所へ行くまで時間をかけねばなと考える。


 しかし。


「着きました」

「へ?」

 ――え?


 敵意のない無慈悲な声が、僕達に告げられた。


「この先が我が主、ラザニナ様がおわします『竜王の間』です」


 竜と戦った場所から、ラスボスの前までは……ものすごく地下かった。

 ――本当に、近すぎです……どうしましょう、マスター。

 うん。どうしよっか……。


 セリが誤字を指摘する余裕もない程に、僕達はピンチだった。

 しかし、竜は「この先が」と言ったが、辺りには扉も何もない。


 まだ大丈夫。


 僕は、そう思って胸を撫でおろす。

 だが、奴がパンと手を打つと、僕達の足元に赤色で描かれた模様が現れた。


「転移陣です」

 泣きそうになった。


「では、参りましょう」

「えっ! ちょ、待っ」


 僕の制止もむなしく、竜は転移陣を起動させた。

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