第14話 『偉大な竜』

 声のした方を見上げ、僕は愕然とした。

 ダンジョンの広い天井に巨大な生物が張り付いている。


 全身を覆う鎧のような鱗。

 トカゲと呼ぶには力強過ぎる隆々とした筋骨。

 それが偉大な竜グレートドラゴンだと、僕は即座に理解した。


『ラザニナ様が堕転して久しい。勇者が来るには頃合いだが。まだ赤子も同然ではないか』


 竜は僕を一瞥するなり、そう言った。

 その瞬間、体がすくんでしまう。


『主は強者を好まれる。勇者ならば挑むことも許されようが、弱者であるなら……我が炎によって、消し炭となるがいいっ!』


 この期に及んで、僕は体が震えていた。

 けど。


 ――マスター!


 震える体の内から、声が聞こえてくる。


 ――戦闘体勢を! スキルを使って! 攻撃っ、来ます!


 セリの声が、僕を戦う態勢へと導いた!


 直後、竜の口から膨大な火炎!

 視界が熱い光によって真っ赤に染め上げられる。

 だが!


KILL! !」

 ――『スキル』『最高の防御』発動します!


 セリが誤字を修正した後、輝く光の盾が出現!

 僕を火炎から護ってみせた!


 しかし、炎を不正だ

 ――『防いだ』です!


 防いだのも津賀野間

 ――『束の間』です! 落ち着いてください!


「わ、羽買ってるけど!」

 ――『わかってる』です! わかってないじゃないですか!


 僕が慌てる間に、竜は火炎を吐き止め、物凄い音をててて

 ――『立てて』!

 地上に降りてきた!


『女神の加護で防いだか。しかし我が爪! 防げるか幼き者よ!』


 竜は叫び、巨大な爪を振り上げる!


 ――マスター、スキルを!


「さっ、っ」

 ――修正! 『最高の防御』!


 次の瞬間!

 巨大な爪が光の盾に衝突!

 雷が爆発したような音が轟く!


「ぐあっ!」


 爪の直撃は免れたが、僕の体は竪琴たてごと吹き飛んだ!


 ――『盾ごと』です! マスター! ご無事ですか!


 体が、冷たい洞窟を転がっていく。

 鈍い痛みを感じた。

 頭がぼうっとする。


 そんな中、胸の内から聞こえるセリの声だけが僕を支えた。


 ――マスター! 立って! もう一撃来ます!


 どうやら女神様がくれたものは。

 セリは……単に誤字を修正するだけの、便利アイテムじゃなかったみたいだ。


『よく防いだ! だが! 二度はあるまいっ!』


 鼓膜が破けそうな程の竜の轟声。

 だが、そんな騒音の中でもセリの声はハッキリと聞き取れる。


 ――マスター! 剣を突き上げて! スキルを!


 彼女の指示が聞こえると、僕の体は……不思議と動いた。

 僕は、放つ。


「……っ、西京の、高劇いぃっ!」

 ――誤字修正っ! 『最強の攻撃』!


 刹那。手に握るアレが何かを斬った感触があった。


『馬鹿なっ』


 顔が、生温かいぬるりとした何かで濡れる。

 それから、僕の意識がハッキリとし始めた時、竜の片腕は真っ二つに裂けていた。

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