第10話 『武器屋』

 その後、僕はセリのナビで武器屋を目指した。

 だが、武器屋にも勇者価格があるのではないかと不安になる。

 しかし、セリいわく心配ないらしい。


 ――武器屋は大半が勇者価格のない店です。元勇者の仲間や、勇者自身が経営している店が多いので。


 という彼女の解説を聞きながら、僕達は一軒の武器屋に入った。


「お? らっしゃい」


 店内には片目にGun帯を付けた、屈強な店主らしき人間の男が一人。

 直後。ゴトリと会計台の上に拳銃が転がった。

 店主がしていた眼帯は外れ、生々しい傷跡が見える。


「なんじゃこりゃ……ハジキじゃねぇか」


 この瞬間、この人絶対堅気じゃないと思った。


 セリ! セリ! ここは確実に失礼のないよう誤字修正をぜひともオンにして。

 ――マスター? お言葉ですが、誤字修正はもっと危機的な場面に備えて温存すべきです。


 いや、今まさに命の危機感じてるんですけど!


 次の瞬間。


「兄さん……ちょっといいかい?」

「……はひ」


 終わったと思った。

 しかし、彼は落ち着いた声で僕に言った。


「あんた、エシュルダに召喚された勇者だな?」




 エシュルダ。

 度々耳にした名だが、どうも僕を召喚した女神様の名前らしい。

 店主はにこやかに話してくれた。


「俺はライゾウ。昔、エシュルダに召喚された元勇者だ。今は武器屋をしてる」


 軽い悪手握手を交わしながら、僕も自分の名を伝える。


「どうもご丁寧に。

 ――握手です、マスター。そして、私のことは紹介していただけないのですね。


 そんなことより誤字のせいでふざけた挨拶をしてしまった。

 やばい。

 そう思ったのだが。


「ああ、よろしく」


 ライゾウさんは笑顔だった。


「エシュルダは優秀な勇者を見つけるのは得意だが、どうも召喚が下手でな? 彼女に召喚された奴は皆デメリットを背負わされる。兄さんも大変そうだな?」


 親近感の湧く話題だった。


「ライゾウさんにもデメリットがあったんですか?」

「勿論。俺はこの世界に来て最初に見た女に惚れるってのだった」


 ん?

 ――おや?


 それは僕とセリの疑問が重なった瞬間だった。


「あの、ライゾウさん」

「どうした?」

「ご結婚されてますか?」

「ああ、している」

「ひょっとして奥さん、あなたに隠れてカメラを趣味にしていませんか?」


 すると、ライゾウさんは一度驚いた後、上機嫌に笑った。


「よくわかったな! あいつは隠してるつもりらしいがバレバレでな? ま、金のかかる趣味だ。大っぴらにはやりづらいんだろう」


 確信。人妻女神の旦那と出会った。

 あの女神……神妻ですって言ってたけど、ライゾウさん人じゃん。

 と、内心思っていると。


 ――マスター。おそらくこの方、冒険の後に神格を得ています。

 神格? 何それ?

 ――えっとつまり、今この方は本物の神様と言うことです。


「で、何を買っていくんだ?」

 今日。僕は神様の店で買い物をした……らしい。

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