第9話 おやすみから、おはようまで

 ――それではマスター、さっそく就寝しましょう。明日は私が起こして差し上げます。起きたい時間を教えてください!


 セリはスマホの代りを務める気満々のようだが、どこまでできるだろう?


 ――マスター?

「ああ。じゃあ7時起床で」


 つい僕が指輪を撫でながらリクエストすると、セリは照れた声をだす。


 ――りょ、了解です。マスター。


 直後、眠気が僕を襲った。


「おやすみ、セリ」

 ――はい。おやすみなさい、マスター。


 僕は指輪を着けたまま、まぶたを閉じて眠った。





 翌朝、セリは見事にスマホの代りを務めた。

 彼女は美声で僕に優しく語り掛け、最後は指輪をバイブレーションさせて僕を起こしたのだ。

 まさかバイブ機能がついてるとは……やはり夜のおも


 ――おはようございます、マスター。

「お、おはよう」




 その後、僕は家族と朝食を済ませる。

 両親に昨日のことを追及されながらの食事は実に有意義だった。


 ――それは皮肉ですね、マスター。

 その通り。


 説教の間、時折聞こえてくるセリの声だけが唯一慰めだった。


 ――恐縮です。


 最終的に両親は、昨日の罰として僕に今日一日の外出禁止を言い渡し、スマホを没収した。

 だが、別になんてことはない。

 なにせ外出禁止と言われても、異世界へ通じる入口が自室の天井にあるのだから。


 ――それに、私がいればスマホも必要ありませんしね。

 ウン、ソウダネ。


 ――……マスター?

「セリの言う通りだ! 僕にスマホなんて必要ない!」


 うん。今日は絶好の異世界転移現世からの避難日和だ!

 それから僕は家にあった脚立を使い、再び異世界へ旅立った。





 のシャボン膜を通り抜けると、昨日利用した聖ブポイント象の前に出た。

 ありがとう。そんな所までセーブポイントである。


 ――マスター、セーブポイントではく、聖ブポイントです。

「わかってるよ――っと」


 僕は周囲に人がいるのを思い出し、胸の内でセリに声をかけた。


 セリ、これは誤字じゃない。それに誤字修正のタイミングは話し合ったろ?


 ――もちろんです。なので私は先程の誤字を修正してはおりません。あくまでマスターと会話を楽しんだだけです。その証拠にあちらを。


 セリは僕にある方向を見るよう促す。

 そこには聖ブポイント像の前に立つ、一匹の象がいた。


 ――「象」ではなく「像」ですよと。私は修正しませんでしたので。


 この、僕はついセリの笑った顔をしてしまった。

 ――「時」と「想像」ですよ、マスター。

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