5ー15
少しご主人様も気が動転しているに違いない。
普段では思いもよらない行動が目立つが、それだけ心配をかけてしまったと言うことだろうか。どこか腑に落ちないところもある。
ルニアは頼もしく抱き寄せるご主人様をみた。
特にこれといって変わりはない。見慣れたと言うのは失礼かもしれないがおかしなところは見受けられない。
なら何故、疑念を払拭出来ずにいるのだろうか。
「あらあら、珍しいこともあるのですね。ブラド様がそれほど慌てなさる姿も」
宙から聞こえるエリザベスの声。
そうだ。エリザベスの言う通りだった。ルニアが何をしても動じないのがある種、ご主人様だ。
「愛しい助手のことを心配して何が悪いというのだ。本当に怪我などはしていないか?」
「は、はい。大丈夫です」
生返事をするルニアの中にひとつの疑問点が浮かぶ。
ルニアの行動に慌てふためくのがご主人様だろうか。
ルニアの怪我の有無を心配するのがご主人様だろうか。
その時、指に嵌めた指輪がキリリと軋む。その痛みにルニアは何かを思い出す。
過保護に、ルニアを守ろうとしている優しいご主人様。
ある意味、ルニアが欲している欲求を理想化しているようだ。
「ブラド様、私は大丈夫ですから。どこにも傷はありません」
「そうか。それを聞いて安心したぞ。さあ、こんな茶番は終わりにしたらどうだ」
エリザベスに聞こえるように声を張るご主人様を軽く押して、ルニアはその庇護された腕の中から離れる。
「ルニア? どうしたのだ」
どこか怯えにも似た声と表情に、ルニアはフッと笑みをこぼした。
「そうですね。こんな茶番はおしまいにしましょう、モルガナ」
ルニアの言葉が広場で静かに響く。それが合図となっていたのか、何もない場所からエリザベスとモルガナが姿を現した。
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