5ー14

 固く力強い腕に抱かれるルニアは傍らにいる頼もしい人物を羨望の眼差しで見た。

「申し訳ありません、ご主人様の手を煩わせてしまいました」

 ルニアは表情が曇る。

 男にとってこういう事態が一番嫌う状況だからだ。

 だが男は、ルニアの予想を超える行動に出た。

「何をいう。どれほど私が心配をしたか。ルニアの無事を確認できて私は心底胸を撫で下ろしているところだ」

 男はルニアが動転しているのも構わず熱い抱擁を繰り返した。

 心臓が口から飛び出してしまいかねないほど、ルニアの鼓動は早鐘を打っている。状況が未だ飲み込めずにいるルニアを他所に、男は溢れんばかりの愛情を示す。

 擽ったいような、今までに味わったことのない多幸感に充たされる。

「あの、ご主人様はもっと泰然とされて頂かないと…その、困ります」

 男の腕の中で、今まで以上に赤面してしまうのを止められない。

 嬉しい。

 なのに、何かが違う。

 何が? と、問われても明確な答えを導き出せずにいた。

 考えあぐねていると「姉さま」とアルマの姿をした少年に、呼ばれる。

 ルニアはアルマを一瞥してから、もう一度ご主人様を見る。

 私にとっての大事な人は、ご主人様以外考えられなかった。

 だけど、何かが違うと警鐘を鳴らしている。何が違うというのだ。

 ルニアは浮かんだ疑念を頭の隅に追いやる。

「エリザベス! あなたの用意したものは私の一番大事な人ではないわ」

 宙に話しかけたものの、答えは一向に返ってこなかった。

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