5ー13

 ひとつ違いの弟、アルマ。

 よく笑い、明るく患った母親を最期まで励まし、勇気付けていた。

 ルニアにとっても頼れる弟だった。


「姉さま」


 どうやら目の前のアルマは欠陥品だ。

 さっきからひとつの言葉しか発していない。

 こんな、こんなまがい物、偽物なんかに折れるわけがない。

 わけがない筈なのに、ルニアは膝を折って手で顔を覆って泣き崩れていた。


 湧き水の如く、噴出するように奥の奥へと埋没させていた記憶が再び。

 息を吹き返したように鮮明に甦ってくる。


 二人して遅くまで出歩き、母親を心配させる。そして父親にこっぴどく怒鳴られた後、強く抱きしめられたこと。

 

 父親が戦争へと駆り出され、不安げな母親とルニアの手を雄々しく握った、アルマを見た誇らしげな父親の姿。

 

 母親が床に伏せがちになれば、気丈に振る舞い、暗くなりがちな部屋を明るく和ませていたアルマ。

 

 父親の訃報を聞き、母親が亡くなった後。それぞれの親族に連れられて、別れたルニアとアルマ。

 アルマはあの時も、人懐っこくルニアを『姉さま』と呼んでいた。

 ルニアは大声で叫んだ。

「私に、どうして欲しいんですか! 私の心を覗いてこんな幻まで見せて」

 私の叫びは濃霧に飲み込まれてかき消されていく。

 何度も呼びかけた後、覚えのある声が、頭の中に直接語りかけてくる。

「あなたが私の勝利を宣言してくれるならば、目の前のまがい物ではなく、本物をあなたの前に召喚します。どうですか? あなたにとって一番大事な人なのでしょう?」

 即答できず逡巡するルニア。

 だがルニアが二の句を発する前に、ルニアの傍に男が現れた。ルニアの影に潜んでいたのか、男はアルマの前に立ち塞がり、自身のコートでルニアの視界を遮った。

「遅れてすまない」

 あゝ、頼もしくも愛しい男の姿に、さっきまで不安でない交ぜになっていた心は、途端に落ち着きを取り戻していく。

 ルニアにとって過去は大事だ。今までずっと封印してきたが失っていいものでないのは確かだ。

 だがそれ以上に、今の自分が存在できるのは目の前にいるご主人様の存在が不可欠だった。

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