5ー5

 男の傍にいるルニアの横顔は嬉しそうで、何度も親指にめられた指輪を愛しそうになぞっている。

「師、ところでどうしてこちらに?」

偶々たまたまだ。ワタシも暇じゃない。お主に構ってやれる時間もあまりない。要件はなんだ」

 男は先ほどの出来事を簡潔に説明した。

 モルガナは思考を巡らせている間に、その姿はカラスの姿から人型へといつのまにか変わっていた。

 ワインを彷彿とさせる深い紅のローブを羽織っている。

 だがそのローブから垣間見えるのは、一糸まとわぬ裸身だった。

「なっ!?」

 無遠慮に指を差して開いた口が塞がらない様子のルニア。みるみるその頬は赤く染まっていく。

「なんて格好してるんですか!? 師匠なんですよね? ご主人様の」

 男はルニアの訴えかけるような問いかけに頷いてみせた。

 男の回答が不満だったのか、頭を抱えるルニア。男にはルニアの四面楚歌は理解に苦しむが、モルガナは腹を抱えてこみ上げる笑いを堪えているようだ。

「弟子の朴念仁は、今に始まったことじゃないが……くくっ」

 気を取り直したモルガナは目の前で閃光が走ったかと思うと、カラスの姿に戻っていた。

「ほれ、小娘。配慮してやったんだ。感謝することだな」

 どこか恨めしそうに男とモルガナを交互に見ているルニアは大きなため息をついて。

「不本意ですが、ありがとうございます」

 ルニアはまだ納得のいっていない表情をしているが、男はモルガナに依頼したのだった。

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