5ー4

 ルニアは目の前で起こっている出来事に、未だ思考が追いついていなかった。

 ルニアの前で、ご主人様はあろうことかうやうやしくかしずいている。

 だが相手は、カラスだ。どこにでもいるカラスでしかない。

 ルニアにはそれ以上でもそれ以下にも見えなかった。


「さっきから不躾な視線を投げかけてくる、この無礼な小娘はなんだね」

 ルニアは自分に向けられた一瞬の殺意に、背筋が凍りついた。

 カラスの後ろから迫り来る深く黒いオーラに怖気おぞけ立つ。

「その子女は私の助手です。名をルニアと申します」

「ルニア? ルニアか……。ふむ、お主の妹御と同じ名だな」

 知っていることだが、改めて指摘されるとルニアの心はざわついた。

 だが目の前の不遜な態度を崩さないカラスは、ルニアの親指に嵌められた指輪を目ざとく見つけ、

「ふっ……。不肖の弟子も、自身が信ずる相手を見付けたということか。小娘よ、その証、失くすでないぞ」

 と、どこか弟子の成長を垣間見たように、嬉しそうな声音でルニアに語りかけた。

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