4-8
少女は咄嗟に起こした行動に、自分自身も驚いていた。
いつも怒られ、殴られない日はなかった。
親方が美味しそうに、肉や魚を平らげるのを指をくわえて眺める日もあった。
様々な親方との出来事。
どれもが良い思い出なんて、ひとつとしてない筈なのに……。
少女は迫り来る、壮年の紳士と怯えて
親方を守るように両手を目一杯広げて、立ち塞がった。
ガクガクと膝が震えて仕方なかった。
目の前に立つ紳士は、紳士の皮を被った殺人鬼だ。
特段、仲が良かったわけじゃない。ただ一緒に暮らす中で、同い年だったというだけだ。
それでも少女が変な輩に絡まれていたら、助けに来てくれたのはいつだってヤスミンだった。エリザやクリスはいつも見て見ぬ振りだ。
今だってそう。
二人は、壮年の紳士の傍で冷えた視線を投げかけてくる。
哀れむような、蔑むような、色んな感情を滲ませた視線はどんよりと昏い。
壮年の紳士はゆっくりと近づいてくる。
少女の視線はどんどん天を仰ぐように頭上に向けられた。
天上から射抜かれるように顔は笑いをたたえているが、凍てつくような眼光に
トン。
軽く後ろから小突かれるような衝撃を味わったかと思うと、
少女の胸はみるみる真っ赤に染まっていく。
少女は「ごふっ」と口に溜まったものを吐いた。それは赤黒く地面に広がっていく。
少女は自身の身体に突き刺さる刀身をみる。
それはいつも親方が手にしている杖の仕込みだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます