4-8

 少女は咄嗟に起こした行動に、

 いつも怒られ、殴られない日はなかった。

 親方が美味しそうに、肉や魚を平らげるのを指をくわえて眺める日もあった。

 様々な親方との出来事。

 どれもが良い思い出なんて、ひとつとしてない筈なのに……。


 少女は迫り来る、壮年の紳士と怯えてうずくまる親方の間に割って入り、

 親方を守るように両手を目一杯広げて、立ち塞がった。

 ガクガクと膝が震えて仕方なかった。

 目の前に立つ紳士は、紳士の皮を被った殺人鬼だ。

 特段、仲が良かったわけじゃない。ただ一緒に暮らす中で、同い年だったというだけだ。

 それでも少女が変な輩に絡まれていたら、助けに来てくれたのはいつだってヤスミンだった。エリザやクリスはいつも見て見ぬ振りだ。

 今だってそう。

 二人は、壮年の紳士の傍で冷えた視線を投げかけてくる。

 哀れむような、蔑むような、色んな感情を滲ませた視線はどんよりと昏い。

 壮年の紳士はゆっくりと近づいてくる。

 少女の視線はどんどん天を仰ぐように頭上に向けられた。

 天上から射抜かれるように顔は笑いをたたえているが、凍てつくような眼光に射竦いすくめられていた。

 

 トン。


 軽く後ろから小突かれるような衝撃を味わったかと思うと、

 少女の胸はみるみる真っ赤に染まっていく。

 少女は「ごふっ」と口に溜まったものを吐いた。それは赤黒く地面に広がっていく。

 少女は自身の身体に突き刺さる刀身をみる。

 それはいつも親方が手にしている杖の仕込みだった。

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