4-9

 失血し、意識が一気に遠退いていく。

 少女は青白い顔で壮年の紳士を見やった。

 その時、少女は大きな間違いをしていることに気付く。

 紳士は確かに紳士服に身を包んでいる。

 だがジャケットのせいだろうか近くに寄られるまで誰も気付かなかったのかも知れない。

 紳士の胸部はふたつの膨らみが見て取れた。

「へへ、油断しちゃダメですぜ。旦那」

 勝ち誇ったように笑みを浮かべる親方の表情は刃先をみて驚愕する。

 仕込み杖の刃先は紳士の身体を傷付けるどころか、手前で見えない壁にでも遮られているのかそれ以上、前に進めずにあった。

 目の前で起こる不可解な出来事に、恐れをなした親方は這いつくばってでも逃げようとする。

 その時、艶めいた女の声が宙に聞こえる。

 音の振動が中空から地上に降り立つと、紳士の前で進めずにいる刃は叩き割られた。

 そして何もない紳士の影から現れたのは、豊満な肉体をしたメイドの姿だった。

「主様、お迎えにあがりました。あら、倒れて血を吐いてるこの子女はどうされたのです?」

 メイドの問いかけに紳士はただただ面倒臭そうに嘆息した。

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