4-7

「私の伝言は、理解していただけましたか?」


 穏やかに、落ち着き払った物腰で紳士は、被る帽子を手に持ち、微笑んだ。

 顔に微笑みを浮かべながらも、獲物である親方を、猛禽のごとくめている。


『ニゲラレナイ』


 褐色の少女の背中に刻まれた呪詛の言葉が、そこにいる人間の心の裡に拡がった。


「私が用があるのは、そこにいらっしゃる親方だけです。他の方々には興味がありません。事を荒立てなければこの場を去っていただいても構いません」


 紳士は、親方の傍らに立つ、クリス、エリザ、そして少女の顔をそれぞれ見ながら話した。

 親方は、自分を裏切ったりしないと高をくくっている。

 だが当然のように一歩踏み出したのは、クリスとエリザだった。

 クリスとエリザは振り返る事なく歩を進め、紳士の立つ場所まで来ると踵を返した。


「恩を、仇で返しやがって! 今まで育ててやったのに」

 悪態をつきながら罵る親方に、失笑するクリスとエリザ。

「誰が誰を育てたって!? 僕らの稼ぎを当たり前のように奪ってたのはどこのどいつだ」

「奪ってきたなら、奪われることも覚悟、しないとね」

 クリスとエリザは笑いながら親方を侮蔑の目で見つめた。


 親方は怒りでわなわなと拳が震えている。

 少女は、どうすることも判断できず立ちすくんでいた。

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