4-5

「そろそろ、芝居はやめたらどうだ?」


 紳士服に身を包んだ男は、傍らで腕組む少女に問うた。

 麗らかなブルネットの髪とここらでは珍しい褐色肌。

 ヤスミンと名乗った少女は蠱惑的に微笑んだ。


「あら、どこからお気付きですの?」

「はじめからだ」

「まあ、ならどうして?」


 紳士は質問を質問で返して来た少女の隙をついて吻付けをした。

 ヤスミンは紳士を突き飛ばして、後ろに飛んで距離を空ける。


「こんな場所で始める気なの?」


 そう言いながら、スカートをたくし上げ、ガーターに取り付けたナイフを手にする。

 小ぶりながらも、今まで幾多もの血を吸ってきたのだろう。

 よく手入れのされた刃物だった。


「本当は、ベッドの上で刺し殺す算段だったろうが、私にも段取りがある」

「あなたみたいな優男が、武器を手にした私に勝てるかしら? 小娘と思って油断しないのをオススメするわよ」


 ヤスミンは死への手向けのつもりなのか、静かに微笑んだ。

 そしてナイフを胸の前で構える。


 だが、ヤスミンは紳士に飛び掛かるどころか、その場で片膝をついていた。

 朦朧とする視界と思考。そこで初めてさっきの吻付けに考えが行き着く。

 毒を盛られたことに気づいた頃には、ヤスミンは地面に突っ伏して昏睡状態だった。

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