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 なんだか部屋の様子がおかしい。

 親方に怒られないように、扉の隙間から中の様子を覗き見る。

 紳士服に身を包んだ壮年の男と対峙して、親方が泣いて謝っている。

 それを見下した眼差しと昏い笑みを溢しているエリザにヤスミン。

 クリスは我関せずといった風体を貫いている。

 私には今置かれている状況が、どういうものなのか全く理解できなかった。


 すると紳士が、ヤスミンを指差したかと思えば、ヤスミンが勢いよく紳士の腕に縋りついた。

 親方は何度も礼を述べている。

 紳士とヤスミンが腕を組んで、部屋を出ようとした時、私とヤスミンの目が合った。

 ヤスミンは勝ち誇った顔をしたかと思うと、舌を出して私を挑発する。

 歳は殆んど変わらないというのに、私をいつもバカにしていた。


 紳士が通りの角を曲がるまで、その姿を見送った親方は、踵を返して私たちを集めた。


「とりあえず、ここはずらかる。荷物を早くまとめろ」


 エリザはいつものことだと、慌てず荷物をまとめ始めた。

 クリスもそれに倣っている。

 私だけが状況を飲み込めないでいると、


「×××! 早くしろ。あの男は明日ここには来ない。死体は川に浮かんでる筈だ。だが念の為だ。さっさと支度しろ」


 要領が掴めずにいたが、ひとつわかっていることは。

 私に持ち運ぶ荷物なんて何ひとつ持ってないことだ。



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