4-3

「えへへ、旦那。いい子がうちでは揃ってるんだが相手していかないか? 安くしとくぜ」


 男は下卑た容貌でニタニタしながら、紳士に薦めてきた。

 ここら界隈では珍しく、黒の紳士服を着こなしている。紳士は冷静に断ろうとするが、下卑た男は食い下がる。


「そう言わずに、選り取りみどりですぜ」


 下卑た男は手を二回叩くと、奥の部屋から数人の少年少女が現れた。

 どの子も痩せ細っていてギラついた眼をしていた。


「この子は、うちの稼ぎ頭さ。どうだい。たわわに弾んでるだろ。大抵の男はこれでイチコロだ」


 少年少女の中で、一番の年長者なのだろう。エリザと名乗った少女は、あくまで慎ましやかに、裾をつまんでお辞儀をした。大きく開かれた胸元から覗く谷間。

 この下卑た男にそうしろと言われているのだろう。

 エリザは見事に、仕事をこなしている。


 紳士が首を縦に振らないと見るや、エリザを下がらせて横にいる少女を薦める。


「じゃあこの子はどうだい? 一部の者には熱狂的な客がつくほどなんだが、アンタもしかしてこっちの口かい?」


 ヤスミンと名乗った少女はここ界隈では珍しく褐色肌をしている。

 小麦色の褐色に、紺碧の瞳。黒髪は艶やかで、波のようにたおやかだ。

 エリザのように肉感的ではない。それを補うほどの蠱惑的な魅力を持った少女だった。

 ヤスミンは紳士に妖しくウインクをしてみせるが動じないので、困惑する。


「ははーん。俺としたことがわかってなかった。旦那はこっちの口でしたか」


 下卑た男はしめしめと隣に立つ少年を薦めた。

 クリスと名乗った少年は整った顔立ちをしている。身なりがちゃんとしていればどこぞの御曹司としても充分に通用する。そんな品格も窺える。

 だが紳士は首を横に振ると、


「私は、客としてここに来たのではありません。主人から借りているお金。今日が期限だと思うのですが」


 下卑た男は、さっきまでの愛想笑いから青ざめたかと思えば、その場で土下座した。

 何度も頭を床に擦り付けるほど土下座して、懇願した。


「頼む。あと一日待ってくれ。まとまった金が用意できそうなんだ」


 だが紳士の顔色は鋭利な刃物のように鋭いままだった。

 泣いて紳士の足にしがみつきながら、


「なんなら、一日待ってくれるならこの中でアンタに譲ってもいい。だから、頼む。後生だ」


 男が泣いて詫びて、必死に食い下がる様を見て、

 少年少女たちは、汚物でも見るかのような視線を投げかけている。


 紳士は嘆息して、男の条件を飲んで、ヤスミンを指差した。

 満面の微笑みを浮かべ、紳士の腕に縋りつく。

 男は涙ながらに感謝を述べて、明日の同じ時間に来るよう告げたのだった。

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