3-14
「もういいです。会話になりません。兄君が最後までそう仰るなら、最期にしましょう」
ガチャンと金属音がしたかと思うと、手には先ほど使用したペンデュラムが握られている。
「兄君を連れ帰ることが出来なかった場合、首だけでもと言われています。さあ、私と帰りましょう」
ギラギラとした眼差しで睨め付けるツェペシュ。
男は咄嗟に、銀髪のルニアを自分の身体の後ろに退がらせる。
男の腕にしがみ付きながらも、その場から逃げ出さない銀髪のルニア。
男の拷問器具はこういう状況を考慮して作られてはいない。
極めて不利な状況であるが、自分の傍にいるルニアだけは、守らなくてはならない。
それが、父君と交わした約束だからだ。
一触即発のその時。
それを制したのは、男でもツェペシュでもなく第三者の登場だった。
「ツェペシュ様、お迎えにあがりました。お戯れはそれくらいにして帰り支度を」
男とツェペシュが対峙する間に、降り立った女。ステンドグラスから注がれる月光に照らされて、女は文字通り、宙から舞い降りた。
「ベス。今、いいところなんだ。邪魔するなら君も真っ二つにするよ」
「未熟なツェペシュ様にはまだ難しいかと思われます」
ツェペシュの
女は男やツェペシュよりも年上で落ち着きがあり腰まである長いブルネットが艶やかである。
身にまとう給仕服からは豊満なラインを惜しげも無く晒している。
見た目の若々しさから想像もできないが、あれで半世紀は生きている。
「これはブラド様、お元気そうで何よりです。ですが本日は別件でのこと。ブラド様のことは日を改めましてお迎えにあがります」
しばらく睨み合いをしていたが、興が削がれたのか。
ツェペシュは手に持ったペンデュラムを納めた。
「いらぬ邪魔、いや、命拾いなのかな兄君。今度の再会を愉しみにしているよ」
ツェペシュとベスはそのまま闇をまとい瞬く間に消えた。
ベスの魔術めいた能力の所為だろうか。
辺りに、不穏な空気が去ったのを確認して、男は構えを解く。
銀髪のルニアもへなへなとその場にしゃがみこんだ。
脅威は去った。一時的にしろ、まだ生を与えられている。
信心はないが、教会という場所がそうさせたのか男は思わず天に祈りを捧げた。
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