3-15

 銀髪のルニアは、人気のないところで手を合わせている。

 簡素な石の墓標。

 名もなき、ルニアと同じ顔をした御者がこの下で眠っている。


 時を同じくして、街では戦々恐々としていた。

 多くの少女が行方不明となっている。

 神隠しだと騒ぐ人も多い。

 そんな中、大量の遺体が池の底から発見された。


 鋭利な刃物で生きたまま寸断されたのだろう。

 その表情は苦悶と絶望、恐怖の色が濃く浮かんでいた。

 遺体は欠損が多く、見つかっていない部位も多い。

 その一部が、この御者に使われたのだろう。

 御者の身体は顔を含めて全身、継ぎ接ぎだらけだったからだ。


「ルニア」


 名前を呼ばれ、振り返ると。優しい眼差しで見つめる男がいた。


「ご主人様」


 私は男の本当の名前を知った。

 だが、私が知る男はご主人様である。

 ルニアは考える。

 まだまだ男のことを知らないことが多い。

 出自は疎か、過去も。細かいことは何もわからなかった。

 今まではそれで良かったのかもしれない。

 でもこれからは、それだけではいけない。

 男がルニアを命を賭してでも守りたいと願ったと同時に、

 ルニアもまた男を心の底から、守りたいと誓ったのだから。


 ルニアは立ち上がり、男の差し出された手を握る。

 その手は温かく、慈愛に満ちたものだった。

 ルニアはそっと握り返し、男に満面の微笑みを贈ったのだった。

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