3-13

「妹よ、今はを継いだと言ったな。なら私に構う必要はないと思うが」

 男は揺るぎない意志を秘めた瞳で、妹であるルニアを見やる。

 聞き慣れない言葉に銀髪のルニアは説明を求めて、男の顔を見たが、


「お嬢ちゃんが、困ってるじゃないか。ツェペシュとはね。串刺し公って意味さ。我が父君の誉れ高き異名でもある」

 ルニア・ツェペシュが、兄君と慕う男へ手を指し示す。


「そして、そこに在わす方は、現当主のブラド4世であらせられる。下賤で卑しいお嬢ちゃんのような子が気安く、思慕の情を寄せていいお人ではない」


 ブラド……?


「ご主人様は、❇︎❇︎❇︎様ではないのですか?」

 思わず否定してほしくて、銀髪のルニアの口から言葉がこぼれ落ちる。

 だが、否定の言葉はなく、沈黙のみ。

 それは自ずと、肯定と等しい答えだった。


「私はその名は、あの国から出た時に捨てた。父君から譲り受けたのは、信念と情熱のみだ。爵位も、身分も名前すら私は必要としない」

「おやおや、そんな我儘が通ると本気で思ってらっしゃるのですか。兄君は腐っても兄君。長兄なのです。王位は長兄が継ぐものと相場が決まっております。不愉快ですが」

 男の返答に憤りを隠せないでいるルニア・ツェペシュ


「まあ、確かに。兄君にはツェペシュの名を継ぐほどの、才能はなかったでしょう。私のように処刑器具を作らず、拷問器具などと温いものばかり」

 ルニア・ツェペシュは大きく嘆息するとこう続けた。

「死というのは一瞬にして散らせるべきです。そして見る者に最大の恐怖を植え付ける。兄君のしていることは自己満足でしかない」


 ルニア・ツェペシュは歩きながら「不愉快、不愉快」と呟いている。


「妹、いやここではツェペシュと呼ぼう。私は死んだものと思ってくれていい。幸い、ツェペシュと私は双子だ。混乱は少なくて済む」


 ツェペシュはその場で立ち止まり、天を仰いで……


「あああああああああああああああ!!!」 ーー壊れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る