3-11

 男は倒れた御者を見つめる。

 その顔は継ぎ接ぎだらけだが、ルニアにそっくりな造形だった。

 ルニアもまたそのことに驚き、今起こり得た出来事に戸惑いを隠せない。


 只、目の前に立つ人物だけ、愉快。とでもいうべき表情、口角を異常にあげて、こちらを見やる。


 男と全く同じ顔。整形によるものではない。傷ひとつないその顔。

 違うのは、


「やあ、元気だったかい? 兄君の噂は事あるごとに聞いていたよ。妹として鼻が高い」


 と、煽てるように拍手をしてみせる。

 だが、ルニアを見てからその表情は一瞬で凍てついた。


「兄君も私というものがありながら、玩具おもちゃを見せびらかすのは良くない」


 即座にルニアの距離を詰めたかと思うと、その頬をべろりと舐め上げる。

 異常な行動に怖気おぞけるルニアの前に割って入り、男はそれ以上の接触を阻んだ。

 ルニアを自分の後ろへと退がらせる。


「兄君はよっぽどその玩具おもちゃが好きと見える。ならその肌には傷はつけたんだろうね? 指の一本や二本はへし折ったのかい? 目ん玉はひん剥いた後なのかな? それとも犯しまくって中は血塗れとか?」


 男と同じ顔を持ちながら下卑た笑い声を上げて「愉快、愉快」と口ずさむ。

 男は改めて目の前の狂人を捉える。

 そして、と呼びかけた。


「『ハイ』」


 銀髪のルニアは目の前でニタニタと笑う狂人も返事をしたことに驚嘆する。


「そうだよ、私もルニアだ。ツェペシュの名を継ぐ、ルニアだよ。お嬢ちゃん」

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