3-9 仕組まれた再会

 男は定刻の五分前に宿の一階にあるラウンジで待っている。

 燕尾服に身を包んだ男は時計に目をやる。

 もうそろそろ時間となるのに、ルニアは何をやっているのだろうか。

 

 すると階上から、ヒールの靴音が辺りに響く。

 慣れないのだろう、少々おぼつかない足取りであるが、堂々と階段を降りてきた。

 男は視線をそちらに向け、感嘆した。

 ラウンジにいた、宿の主人や宿泊客も呆気にとられる。


 普段の粗野とも取れる少年めいた格好と同一人物とは思えない。

 たおやかに伸び始めている銀髪は少女が動くたびに、きらめいている。

 薄紫色のロングドレスに身を包んだ少女ーールニアが男の前で軽くお辞儀をした。

 うっすらと顔には化粧が施されている。

 白粉をはたき、紅を口元に薄く差している。それだけで見違えるような美しさを放っていた。


 ため息しか出ていない男に、耳まで赤く染めたルニアはどうしていいのか分からずにいた。


「あ、あのぅ。ご主人様、変ではありませんか?」


 絞り出したそれだけの言葉だが、上ずってしまうのを抑えられない。

 だが、この後ルニアは飛び上がりそうになる程、驚くことになる。


「うつくしい。お前がこれほどとは思いもよらなかった」


 男がそう告げると、うやうやしく膝をついてルニアの手を取り、口づけをする。

 ルニアの顔は火が出るほど真っ赤になり、開いた口が塞がらないのは言うまでもない。


「あわわわわ、お戯れをご、ご主人様」


 男は少々、浮かれていた自身の調子を整えると、ひとつ咳払いをした。


「ひとつ、ルニアには伝えておく。これから向かう先は戦場と思え。そして、私のことを信じろ」


 何を今更、と思ってしまうほどルニアには当たり前のこと。

 だが、ルニアは受諾したと首肯した。

 そこに、祝賀会への遣いが宿に現れたのだった。

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