3-4

「こちらに来なさい」


 男はベッドの横を指し示した。

 ルニアはゆっくりと立ち上がり男の横に腰を下ろした。


 男はルニアに向き直り、

「私は、世間の男とは違う。肉体へ訴えかけられる快は、痛みの中にある。だから、肉体に施されても快を得ることはできない」


 男は、内ポケットからひとつの指輪を取り出した。

 それを、慈愛に満ちた表情で、ルニアの親指に嵌めた。


「これは……?」


 ルニアは嵌められた指輪を見る。

 指輪といっても、二つの湾曲した金属片が螺子ねじで固定されている。


「これはね。私が父君に習い、初めて作ったものだ。出来が悪いだろう。ところどころいびつで仕上げも雑でもある。だがこれは父君との思い出の品だ」


 懐かしむように話ながら、ルニアの手を掴み指輪の螺子ねじをゆっくりと回していく。

 徐々にあった隙間は埋められて行き、ルニアの白魚のような肌に食い込んでいく。

 苦悶に唇を噛むルニア。

 それを見た男は少し螺子ねじを緩めた。


「その痛みこそ、私の愛だ。私が分からなくなったら締めるといい」

「ご主人様、お父様との思い出の品を私めに?」

 男は首肯して、ルニアの頬に伝った涙の跡を拭った。

 そして愛娘にするように、ルニアの頭を優しく撫でてやった。

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