3-3

 男はルニアを見やる。

 年の頃は、幼い外見のため十にも満たないと思っていたが。十一になるようだ。

 出会った頃よりも少し伸びてきた銀髪。

 今では、後ろで器用に結っている。

 背丈は普通、一般的にどうかはわからないが、手足は繊細な作りだ。すらっとして長い。

 ただ、胸も含め、体つきは女としての魅力には程遠い。

 普段の格好もそうだ。

 前の街までなら、ひらひらの裾にレースをあしらったような服を着ていた。

 それがこの街に来てからは、綺麗に風に靡く銀髪は、お団子に結いキャスケットの中に。

 スカートは辞めて、キュロットを履いている。

 見方によっては、子女ではない。少年そのものである。


 だが今は、解放されて寝巻きである。

 ゆったりとしたシルクを思わせる服に袖を通している。

 おうとつの少ないシルエットでも、どこかなまめかしく映った。


「改めて問う。寵愛とはなんだ」

「寵愛、とは……主人が従者に愛を施すことです」

「私は、充分にルニア。お前を大切にしているつもりだ。不服なのか?」

 

 ルニアはパッと顔を上げてかぶりを振った。


「滅相もありません。ただ私は恩返しがしたいのです。食べるものにも着るものにも、住む場所にさえ困窮していた私に。ご主人様は、温かい毛布のように包んで満たしてくれた」

 

 ルニアは椅子から立ち上がり、恭しく男の足下にかしずいて述べた。


「私が自信を持って今出来ることは、殿方へ奉仕するすべです」

「私には女としての魅力が欠けているのも熟知しています。それでも……」


 だが二の句を告げる前に、ルニアの目から大粒の涙がこぼれ落ちた。

 再び、嫌われてか飽きられてか、この場所から放り出されないように、こちらの言葉を全身で聴き、一生懸命応えて来た。

 だが不安はずっとルニアの肩に、重くのし掛かっていたのだ。


 普段から人間と、特に子女と関わっては来ていない男には余るものだ。

 それでも男には、手放せない理由があった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る