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「さて、今宵の話だ」

  私は窓の外へ投げかけていた視線をルニアの方へと戻す。

「このあと今朝に買った女が、ここを訪れる訳だが、どうした。不機嫌そうな顔して」

 ルニアは「なんでもありません」とかぶりを振って否定したが、表情は冴えないままだ。

 だがこれ以上、助手のご機嫌をとっている場合ではない。

 私は鞄からあるものを取り出した。


「今日は、これを試す。まだまだ改良の余地があるのだが。ルニアの作ったものだ。試さないわけにはいかない」

「ご主人様、そんな失敗作。捨ててください」

 ルニアは見るのも嫌なのか、目線を外して吐き捨てる。

「ルニア。誰にでも、処女作はあるものだ。だがこれは習作とは違う。日の目をみる権利は等しくある」


 私は愛おしそうに、指を這わして撫でる。ひんやりとした金属の肌質。

 器具に備え付けられた螺子ねじに手をかける。

 ギリギリと重たい軋み音を響かせて、姿を変えていく。

 私が教えた通りに組み上げられている。

 ルニアは物覚えがいい。一度言ったことは、寸分違わず再現してみせる。

 繊細さに欠ける部分は、修練すればいい職人となれる才を秘めていた。

「今夜が、ルニア。お前の作品の処女航海でもある。存分に試すとしよう」


 嬉々とした私の表情を見つめていたルニアもニッコリと年相応の笑顔を見せた。

 いつもの無理して淑女めいた微笑みとは違う自然な笑いだった。

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