2-3

 ーー龍虎、相打つ。

 それは私の前で繰り広げられる椿事ちんじのことである。


 私が不快に思っていたのを察知したまではいい。

 感の良い子だ。ルニアのその利発さは美徳と言うべきだろう。

 だが、まだまだしつけの行き届かない部分も多い。


 火花を散らすが如く、ルニアと街娼がいしょうの女は睨み合いを続けている。

 このまま無駄に時間を浪費するのもしゃくなので、私はお金をテーブルの上に置いた。

 黄金に輝く金貨が3枚。

 ちなみに金貨1枚で、半年は遊んで暮らせるほどの額である。

 一瞬にして女の目の色が変わる。


「お前を、買うことにする。これは、前金だ。今夜、指定する宿にきて欲しい」


 満面の笑みを浮かべて勝ち誇ったように、女はルニアを見やる。

 それに引き換え、ルニアは敗北感必至。

 女の揚々とした後ろ姿を見送った後、落胆して肩を落とすルニアに私は詰め寄った。

 私との距離が縮まったことにルニアはまだ気付かない。


「私のことを考えてくれるのは嬉しい。だが思慮深さも必要なことだ」

 ルニアの顎に手をかけ、上へと持ち上げる。

 見るみる頬が上気してルニアは耳まで染め上げた。半開きになった唇からは、甘いため息が漏れている。

「私は、傷つきはしない。ルニアが傍にいてくれさえすれば、それでいい」


 そうとだけ告げると、私はまた新聞に目を落とした。

 ルニアはまた顔を伏せて俯いている。

 だがそれは、にやけてしまう顔を隠すためだ。

 上品な子女として振る舞えるまで、一時の猶予がルニアには必要だった。

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