1-3 十巻き

 男が息を切らせ、部屋へと入ってくる。

 その息はとても白く、部屋にひとつしかない窓の外は一面、銀世界だった。

「今日はね、初雪さ。愛しい人。きみの肌のような白さだよ。思い出したらもうここに来ていた。だけど少々外は騒がしいようだ。折角、きみとの短いいこいの間が台無しだ」


 男はひつぎに備え付けられたハンドルを回していく。つんざくような軋み音。重い柩の蓋は、沈黙を破り重く沈み込んでいった。


「さて、一週間になるがどうだろうか。本当に残念なのはこの柩には、中をうかがう窓がついていないことだな。愛しい人。永遠に旅立ったかどうかを確認できない。いつもならば待つのもまた楽しみなのだが、今回は時間がない。ああ、悔やまれるよ。私は運がない男だ」


 男は傍に置いていたコートと帽子を手にして部屋を出る。一瞬、後ろ髪を引かれ振り向くも、一瞥しただけで声をかけずに出て行った。

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