1-2 八巻き

「やあ、愛しい人。今日は色づいて美しい夕日を見たよ。きみの唇もべにを差したように鮮やかだったって思い出したら、逢いたくなってね」

 ひつぎは空気を震わすことはなく、沈黙が答えとなって返ってくる。

 気にすることなく扉を閉め、柩にかしずいて頬ずりした。

「この部屋はね。邸の中で一番静かで、冷たい。愛しい人。きみを安置するには打ってつけの場所さ」


 深い溜め息をつきながら男は柩に口づけをした。

「ここならきみは永遠に昔のままさ。だけど残念なのはきみの顔を見ることが出来ない。非常に残念だよ」

 男は名残惜しそうにひつぎから身体を起こす。そのまま脇目も触れず、扉を開けて出て行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る