銀髪のルニア

発条璃々

第1話 沈黙の柩

1-1 四巻き

 ——これは他愛もないお話。


 静謐せいひつに包まれた部屋で、虚空こくうを見ながら男は語りだす。

 その場所に人影は見当たらない。男は漆黒のひつぎに腰かけている。

 男は柩を撫でる。かつて愛した恋人に、触れるようなうやうやしい手付きだ。


「今日はね、とても空が青かったんだ。それはもう、吸い込まれるような蒼穹そうきゅうでね。ああ……きみの瞳も鮮やかな蒼色だったなって思い出したら、逢いたくなってね」

 柩にもたれ掛かるように寝そべったかと思うと、やさしく口付けをする。

「私の想いは、届かない。この柩の厚さが邪魔をするわけじゃない。永遠に私の傍からいなくなってしまう」

 男は寂しげにいうも、どこか醒めたような顔色でおもむろに立ち上がった。


「また来るよ。愛しい人。旅立つ前に私の心を慰めておくれ」

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