第122話全員集合4

「あッ、そうだそうだ。ひーくんからいずみくんにって預かってた物があったんだ。コレ、あんずちゃんへのお土産なんでしょ?渡してあげなよッ。あんずちゃん、いずみくんたちが都に行ってる間、お利口に留守番してたんだから」


 そう言って、ヨシヒロはどこからか一升瓶を持ち出した。すっかり忘れてたけど、GT-Rおじさん家から酒かっぱらってきたんだった。ひーとんのトラックに積みっぱなしだと思ってたけど、ひーとんのヤツ、手を付けずに取っておいてくれたんだ。彼の気遣いを嬉しく思いつつ、桃子との件で笑ってしまった事を申し訳なく思った。

 とにかく俺は、ヨシヒロが預かってくれていた酒を手に、未だにイナリの恋路を邪魔しているあんずの元へと向かった。


「あんずーッ!ちょっと渡したいもんがあるで、こっち来やぁーッ!!」


 少し離れた所から声をかけると、あんずは何やらイナリに捨て台詞を吐いて、俺の方へと駆け出した。あんずにとっては、ハクトは唯一のアヤカシ同士の友達だ。だから、イナリにハクトを取られちゃうと思ってんだろうなぁ。どうにかしてあんずとイナリの仲を取り持ってやらねーと、ハクトとの友情にヒビが入るかも知れない。

 俺の側まで寄ってきたあんずは、さっきまでイナリにぶつけていた怒りが嘘の様に、にこやかな顔を見せてくれた。その温度差が逆に怖いんだけど、もし仮に俺に怒りを向けてきたとしても、俺には彼女の機嫌を確実に直すスーパーアイテムを持っているのだ。俺は背中に隠していた一升瓶を、あんずに差し出した。


「あんず、遅くなってまったけど、お留守番しとってくれたご褒美だ。コレ、あんずの好きな酒だぞ~ッ」


「えッ?アタシにくれるんですかッ!?それに、コレお酒なんですか??アタシの知ってるのは、もっと白くてドロッとしたヤツですよ?」


 多分、どぶろくの事を言ってるんだろうが、その表現だと違う物を指してるみたいだぞ。まぁ、あんずは男の精子なんて見た事ないだろうけどな。いや…、もしあったとしたら、俺は立ち直れない…。

 そんな俺の葛藤など知りもしないあんずは、早速酒瓶の栓を抜き、一升瓶をラッパ飲みし出した。湯呑か何か借りてくれば良かったな。俺は酒を飲まないから気が回らなかったが、俺のやった事は、『お茶ですよー』と言いながら、急須だけを渡す様なもんだ。

 しかし、そんな些細な事など全く気にしないあんずは、透き通った清酒をグビグビゴクゴク飲み込んでいた。そんな一気に飲んだら大変な事になんぞッ!と、不安を感じていると、あんずは瓶から口を離し、初めて飲んだ清酒について、必要以上の感想を述べてくれた。


「はわわぁ…。たくちゃん、コレすっごくおいしいですッ。口当たりはまろやかで、まるで水みたいに喉をスルッと通っていきますッ。お米のあまみも強くて、くだものの汁を飲んでるみたいですッ。

 ミコトの方はこんなにおいしいお酒を飲んでるんですねぇ…。あッ!だからたくちゃんはいつもアタシが飲んでるお酒が苦手だったんですかッ?」


 あんず…、お前は自分で気づいてないかも知れないけど、もう既にベロンベロンだぞ。っていうか、もう半分も残ってねーじゃねぇかッ!1ℓ以上一気しやがって、大丈夫か?あと、俺はアルコール自体がダメで、どんなに美味しいお酒でも飲めません。すぐ吐きます。

 衝撃的な清酒の味に、驚愕と喜びを隠せないあんずだったが、その味は彼女のお気に召した様で、俺はホッと胸を撫で下ろした。不味くて飲めないと言われたら、それこそ俺は立ち直れない。別に俺が作った酒ではないけど。


「あーッ!アタシ、いいコト思い付いちゃいましたッ。よしひろさまーッ!ボング貸してもらえますかーッ!?」


 ん?何かイヤな予感がするぞ?

 あんずからボングを強請られたヨシヒロは気を遣ってか、あんずに手渡す前に、受け皿に詰められるだけのカナビスをパンパンに詰めてから渡していた。そのボングを受け取ったあんずは、入っていた水を全部捨て、代わりに酒をボングに注ぎ出した。必要な分の水量を酒で満たすと、彼女はボコボコという大きな音と共に、大量の煙を吸い上げた。その煙を吐き出すあんずは、恍惚の表情を浮かべながら、今度はそれを俺に回してきた。


「はいッ、たくちゃんッ!コレすごいですよーッ!おいしーですよーッ!」


 オイオイオイ。死ぬわ、俺。

 こんなに酔っ払っているあんずは初めて見るが、ここまで上機嫌で勧められるとなかなか断る事ができない。あんずから渡されたボングを、恐る恐る口に近づけたが、もうこの時点で酒の臭いがハンパない。俺はこの臭いも苦手なのだ。でも、あんずの気持ちを無下にはできないし、直接酒を飲むワケでもない。俺は覚悟を決めてカナビスに火を着けた。


「ンンンーーーーッッ!!……ゴホッ!ゴホッ!ウェーッホ!ウェーーッホッ!!ゴホッ!」


 カナビス自体の刺激もあるが、それよりも気化したアルコールを気管に通したのがマズかった。咳と一緒に吐き気まで込み上げてくる。そのせいで何かヘンな声出ちゃった。っていうかコレ、もう二度とやりたくないッ!

 そんな俺の苦痛など気にも留めない酔っ払いのあんずは、残りのカナビスを全て吸い尽くした。それだけには留まらず、あんずはボングに入っていた酒を一気に煽った。よくそんな事できるなぁ。いくら香りの良いカナビスだって、ヤニの臭いが付いてしまったボングの水は、相当クサい。しかも、その水が酒になったら、もっととんでもない臭いになるはずなんだけど…。


「う~~んッ!THCッ♡」


 まぁ、あんずが喜んでるからヨシとするか…。しかし、あんずに与える酒の量は考えなくてはなぁ。こんな事が度々起こる様じゃ、俺の身が持たん。せめて一気ができない様に、徳利で一合ずつ飲ませよう。

 あんずに対する接し方を改めていると、鳥居を潜って境内に入ってくる人影があった。シルエットからすると、ひーとんで間違いない。桃子と一緒にいるはずなのに、一体どうしたんだろう。着物の出来上がりにはまだ早いと思うんだが。


「ももたんと気まずくなったから…ッ、逃げてきた…ッ」


「「ブッフウゥゥゥゥゥゥゥッッ!!!」」


 俺と緑は同時に噴き出した。しかも、まだ涙ぐんでる。いい加減、立ち直れや。

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