第42話政策と制作11

 俺なんかよりも遥かにこの世界に精通している瓜原が言うには、被行者は大きく二つに分かれているそうだ。それぞれ『二〇組』と『二一組』と呼ぶ。ちなみに俺と瓜原は『二〇組』で、氏家は『二一組』らしい。

 アイツと同じ組じゃなくて良かった事に安堵した俺は、その二つにどんな違いがあるのか尋ねた。


「氏家見れば分かると思うけど、二一組の奴らは身体に機械をブチ込んでやがる。っていうよりも、簡単に言うと、20世紀生まれか21世紀生まれかの違いだな」


「ちょっと待てよ。00年の大晦日に生まれた奴と、01年の元旦に生まれた奴とじゃ一日しか違わんがや。境目が曖昧すぎん?」


 結構鋭い質問が出来たと自画自賛している俺に、被行者の先輩として瓜原は格の差を見せつけるかの様に、この世界…いや、『手水政策』の秘密について触れた。


「お前、美奈の神社知ってんだろ?あそこには、あの女が付けたであろう名簿がある。被行者の名前と生年月日が書いてあんだけど、上からこっちに来た順になってんだ。その一番上にあんのは美奈自身だ。1964年の5月8日生まれだって書いてあったな。

 だけどそれ以降の被行者は随分と二一組の奴らが続いてたんだ。しかも、2029年9月29日以前に生まれた二一の奴は一人もいねーんだよ。分かるか?

 二〇と二一の間に、30年の空白があるんだよ。そこで『何か』あったんだ」


 本当に何言ってるのか、サッパリ分かんない。

 とにかく俺が持ってるこの政策の情報をおさらいしてみる。確か被行者に選ばれるのは純血の日本人である事、16歳である事、そして徳が高い事だ。三つ目はよく分からんので置いとくとして、彼女が言う様に二一組の齧り付きが2029年生まれだとすると、政策を受けるのは2045年だ。そんな未来の事など、俺の知ったこっちゃない。


「ほんで、お前が言った『こっち側』って何??二〇組の事??」


 考えがこんがらがってしまい、話を振り出し近くまで戻した俺の質問に否定系で答えた瓜原の言葉は、さらに興味深いものだった。


「あ?あぁ、ちがうちがう。それは二〇組の中の話だ」


 20世紀生まれの被行者は、その中で二つに分けられる。この世界で『死ぬ』か『死なない』かだ。先にも氏家がそんな事言ってたな。

 奴曰く、既に死んだ状態で此方に送られる被行者は、死ぬはずがない。しかし実際にこの世界で死んでしまう被行者は存在する。そいつらを『あっち側』と呼ぶのに対して、殺しても死にそうにない奴を『こっち側』と言うんだそうだ。


「何で瓜原は俺が『こっち側』だと思うの??」


「理由はいくつかあるけど、まずアヤカシを連れてる事だ。『あっち側』の奴でアヤカシ連れてんの見た事ないもん。

 それと、さっき豹変したあんずちゃんは間違いなくお前の訛りがうつってた。拓也の影響をモロに受けてる証拠だよ。そこまでいきゃあ、お前は『こっち側』だ」


 何だか褒められた様な、認められた様な気がして有頂天になりそうだったのだが、そもそも講釈を垂れるこいつが『こっち側』なのかどうか怪しい。

 確かに瓜原は頭も切れるし、肝も据わってるし、ジャンキーだし、刺青だらけだし、殺しても死なないってのはこいつの事かも知れない。だけど、それだけでは納得出来ない俺は、質問を重ねた。


「逆に聞くけど、お前は『こっち側』なんかて…」


「実証済みだよ。こっち来てから暇だったから、致死量のネタ食ってみたんだけどヘッチャラでさ、終いにゃ希釈前の結晶そのまま食っても大丈夫だった」


 こ…、こいつ馬鹿だああぁぁッ!!やるか、普通そんな事!?いくら死なないからって言っても限度があるだろ!!

 馬鹿と天才は紙一重っていうけど、この刺青ジャンキーはどう見ても非の打ち所のない馬鹿です。本当に(ry

 俺の理解の遥か上空を音速で駆け抜ける彼女はさて置いて、話の腰を折る様に本題へと軌道を修正した。


「まぁそれはええで、結局あんずとイナリの事どーすんの?」


「あ、そうだそうだ。忘れてた」


 その為に連れ出しといてこれなんだもん。だからジャンキーは面倒なんだよ…。(自棚上)

 長すぎる前置きを経て慎重に選考した結果、漸く俺たちが導き出した答えは、喧嘩両成敗だった。


 ――――――――――………


「あんずー、ちょっとこっち来やー」


 部屋に戻ると、あんずとイナリはまだバチバチにガンを飛ばし合っていた。武道の達人なら二人の視線から、彼女らの攻防戦を読み取る事が出来るかも知れない。

 俺はあんずを、瓜原はイナリをそれぞれ呼びつけると、下手人どもに判決を言い渡した。


「イナリ。お前、拓也の事をよく知りもしねーで悪く言いすぎだ。あんずちゃんが怒るのも無理ねーだろ。謝れ」


「あんず。裸見られたのはお前の失態だろ?何で殴るんだ、イナリ悪くねーがや。謝れ」


 幼いアヤカシの二人はその見た目通り、叱られた事にシュン…となっていた。気を落としているあんずの姿を見るのは、何とも心苦しい。打つ方の手も痛いんだ、と嘆く親の気持ちが今なら理解出来る。

 言いつけの通り互いに謝罪する光景は、無理やり先生に仲直りを強いられる小学生の様だった。


「たくやのこと悪く言って、ごめんなさい…」


「いきなり殴って、ごめんなさい…」


 おーい、お前ら噛み締めた唇から血ぃ出てんぞー。

 こいつら絶対仲良くなんねーわ。

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