第19話可能性1

「今日収穫した分は全部持ってっていいよ」


 陰干しを終えたカナビスを国枝くんがナイフで細かく刻み、ハクトに教わりながらそれを紙に巻く作業をしていると、彼は気前の良い台詞を吐いた。

 午前中に刈り取ったカナビスは、正午を迎える頃にはすっかり乾いていた。さっきまで土に根を張っていた植物がこんなにも早く乾燥すると感じるのは、多分俺たちがミコトだからだろう。


「マジで?もらっちゃってええの?」


「もちろん!よかったら種と古いボングも持っていってよ」


 ボングというのは、あの水の入った試験管の事らしい。それにカナビスの種までくれると言うのだ。何て良い人なんだろう、この国枝って子は。昨日会ったばかりの奴にここまでしてくれるなんて。ホモなのかな?でもこんないい子になら掘られてもいいかも…。それか掘ってほしいのかな?

 勝手にホモに仕立て上げられた彼は、手を動かしながらその胸の内を少し明かしてくれた。


「こっちに来て暫らくいるけど、僕を訪ねてくれたのはいずみくんが初めてなんだよ。それに僕が作ったカナビスを求めてくれて…、だからすごく嬉しかったんだ」


 ハクトというパートナーがいても、それだけでは埋まらない孤独を、ずっと感じていたのだろう。逆の立場だったら俺は耐えられたのだろうか。いや、俺も孤独にはずっと耐えてきた。だからこそ彼が積み上げた歳月を思い、心が痛むのだろう。


「じゃあまた遊びに来てもええ?あんずもハクトに会いてーと思うし」


「大歓迎だよッ!いつでも遊びに来てよ!」


 こうして俺たちは友達になった。同年代として、同じ被行者として、こうなる事は必然だったのだろう。何だか誰かの思惑通りになっている様な気がしたが、これに関しては悪い事ではない。むしろ俺にとっては必要不可欠なものだ。


 思い返せばタバコを所持していた事や、あんずに出会えた事、ゲトー共に襲われた事も全て予定調和に過ぎないのかも知れない。もっと言えば、生まれた時から既に誰かが組んだ予定の中で生きていて、今もその途中なんだろう。

 見えない力に運命や人生を左右させられているなんて、オカルトマニアか精神異常者の類の思考だ。しかし、そう考えるに足る根拠がカナビスのメッセージに含まれていると、俺は確信していた。


「次来る時までに箸の使い方覚えなかんな」


「は、はい。がんばります…」


 何の気なしに問いかけた言葉にあんずは顔を少し曇らせた。どうやら箸の扱いに、苦手意識を覚えてしまった様だ。でも面白いから頑張って覚えさせよう。あーん、とかして貰いてぇし。

 俺が描いたあんずとのハッピーな近未来予想図は、思った通りに叶えられていくのかは分からないが、今日収穫した分のカナビスを紙に巻いた物と巻いていない物に分けて、種とボングと一緒に国枝くんが渡してくれた。


「はい、いずみくん。これだけあれば暫らく持つよね?無くなったらまた取りに来てよ。それから種は植えてから2~3日で収穫出来るよ」


「本当ありがとね、国枝くん。色々世話になってまって」


「いいよいいよッ!そ…、それより僕のこと……『ヨシヒロ』って呼んでくれないかな…?」


 何これ、可愛いんですけど。男の癖に…、っていうか誰だよこの子を男にしてしまったのは。……神か…。何が神だよお前、名前だけじゃねーか。本当使えねぇ…。

 ヨシヒロを女の子にしてくれなかったクソザコ神さまに文句を垂れつつ、彼とハクトにまた来る事を約束して、彼らの家を後にした。


「はぁ…、またあの距離を歩かなかんのか…。おうじょうこいてまうわ…、ったく」


 再び強いられた半日がかりのピクニックに意気消沈しながら、あんずと共に我が家を目指し西へと進んで行った。 

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