第14話お買い物6
「オラァッ!!たのもぉぉッッ!!」
「たのもーッ!」
あんずと二人で採取した貝を手に、再び桃子の店を訪れた。昨日受けた恥辱と、意外と大変だった貝集めの鬱憤を晴らすかの様に思いっきり扉を叩いてやった。
「わッ!ビックリしたー。何ー、たくやくん。強盗でもしにきたのー?」
「フッ。そんな舐めた口聞けるのもこれまでだでなぁ…。昨日のあの3点、キッチリ耳揃えてよこせやぁッ!」
カウンターの上に貝を詰めた壺を勢い良く置き、幾つかのそれを片手で掬い上げて桃子の目の前にパラパラと落としてやった。
この世界の貨幣システムを把握してなかった、っていうか考えても無かったこの俺の醜態を、あんずの見ている前で晒してくれたアマに対する最上級のカウンターアタックだった。
カウンターの上だけに。
「わー、貝持ってきたんだー。んー?ちょっとぉ、砂くらい落としてきてよねー。ってゆーか、これ何個か生きてるんだけどーッ!!マジきもーいッ!ちょっとさいあくなんだけどー!ありえなーいッ!!」
え?何か処理しなきゃいけなかった?そんなの聞いてないんだけど。言われてみれば俺たちが拾ってきたこの貝…、めっちゃ汚いやんけ!!拾うのに必死で洗うの忘れとったわ…。何でそういうのに気が回らないんだろう。何でこんな詰めが甘いんだろう。それよりも、ギャルの罵声って何でこんな胸に刺さるんだろう…。
クッソ間抜けなしたり顔ぶら下げて、偉そうに片肘ついたポーズのままじんわりと涙を浮かべていると、出来た人の桃子は俺に慈悲を与えてくれた。
「もーッ、今回は特別これでゆるしてあげるよー。次はないからねー」
そう言ってくれた彼女に、またチューでもしたろかな。そんな衝動に駆られていると、何やら規則正しく穴が開けられた板状の物を取り出した。どうやら貝を数える道具の様だ。
桃子の手によって会計作業が進められていると、あんずが様子を伺ってきた。
「たくちゃん…、どうですか…?」
「あ、大丈夫。譲ってくれるみたい」
「わーッ!やったぁ!!」
この笑顔が見れるなら、少しの恥や少しの手間なんか全然惜しくないかもな。崩れかけた俺の精神を、あんずが支えてくれていた。
「はーいッ、たしかに貝400!お買い上げありがとーございます。じゃーあんずちゃん、こっち来て着替えよーッ。あと、ついでに髪も結ってあげるー!」
「はーいッ!」
ノリノリの女の子二人は、カーテンで仕切られたフィッティングルームへ消えて行った。あんずの着替えが終わるまでの間、昨日ここで桃子から聞いたゲトー共について考えていた。
『山野』という被行者が率いている暴走族、『水芭蕉』…。奴らにどうやって引導を渡してやるか。
桃子の願いを実現させたヒト…。建築や金属加工の技術…。手に入れた多々良場…。配られた手牌の中から上がるべき役の形は、俺の脳裏でその片鱗を見せていた。
「たくやくん、おまたせーッ!じゃッじゃーんッ!ネオあんずちゃんでーすッ!」
「おぉ…ッ、おおーッッ!!可愛い!!でらええがやぁッ!」
昨日は上から合わせるだけだった桃子のコーディネートを完璧に着こなした姿のあんずが、目の前に現れた。服を着る事に慣れていないせいか両手をギュッと握り締め、それを身体の前でモジモジとさせていた。その仕草だけでも相当な破壊力だったが、さらに追い打ちをかける様に上目遣いを駆使し、こう言い放った。
「か、かわいーですか…?たくちゃん…」
下手な言葉は必要無かった。親指を突き上げた拳を彼女に見せると、それを賛辞と受け取り晴れやかな顔を俺に向けた。この天使を具現化せしめた天才桃子も小さな拍手をあんずに送った。
こうして俺とあんずの初めての買い物劇は幕を閉じたのだった。
「ふーッ、これで俺も半裸状態からおさらば…、ってあれぇ!?ここ破れとるがやッ!ここもッ!ここもぉッ!?」
「あぁッ!すみません…。昨日酔っ払っちゃってて……」
「桃子さん…、これ直せる…?」
「直せるけどさー………」
残りの貝を全て吸い上げられた。
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