第2話当選2
「今泉さーん、明日の夜が最期の食事だもんで、食べたいものあったらコレに書いといてちょーだいねー」
2日後の朝に政策が施行される事になった。メシが食えるのも今夜をいれて4食だ。
最後の晩餐にふさわしいメニューなんて分からない。食いもんに大した頓着がなかったからな…。
というかあの看護師のババァも言い方があるだろ。死刑囚だってもっと気使われると思うぞ。
「ハンバーグとご飯と味噌汁、あとお新香…っと、これでいいや」
他に俺と同じ立場になった子はどんな物を食べたんだろう?家族と一緒にすごしたのかな?恋人なんかいたらたまったもんじゃないだろうな。
他人事の様に考えを巡らせていたが、自分も2日後に死ぬという事にまだ実感が沸かずにいた。
死に対する恐怖みたいなものを持ち合わせていないからだ。自分が望む望まないに関係なく人は死ぬ。誰だって死ぬ。人じゃなくても死ぬ。これは万物に与えられた唯一の平等なのだと、自分なりに解釈していた。
たかだか16年の人生でも色々と考えるのだ。
そんな俺自身の思考とこの病院の軽いノリが相成って、悲しいとか怖いとか全く思わない。というか、まだ半信半疑ではあるが、『新しい世界』にある種期待の様なものを抱いていた。
ただ死ぬも良し、別世界に飛ばされるも良し、どっちでも俺にしてみれば取るに足らない事だった。
でも一度くらいは女の子と付き合ってみたかったなぁ…。
「あ、今泉さん書いといてくれた?えーっと、ハンバーグにご飯…ね。かわいーのが好きなんだねー。んじゃ明日はおいしーハンバーグ作ったるで楽しみにしとりゃーよッ♡」
可愛くねぇんだよババァが。(ハンバーグは美味しかったです。※後日談)
残りの時間はのんのんと過ごした。
人の出入りの少ないこの病院もかつては賑わっていたのだろうと思わせる駐車場の無駄な広さを眺めながらコーヒーを飲んだり。
生まれてからずっと見てきたこの街の空を仰ぎながら、年齢制限が消失したタバコを楽しんだ。
現世に未練がないというと不感症を疑われるが、残す未練が無いというのも紛れもない事実で、家族でもいたら違うんだろうけど身寄りのない俺は感傷に浸る心のぶつけ所が見当たらないのだ。
そんな俺の心を投影するかの様に、運命の日を軽やかに迎えた―――。
「……。これなんすか…?」
「何って、君の葬式じゃない。あ、葬式っていっても神道のやり方ね」
四隅を竹にくくった麻縄がベッドを囲んでいる。その縄には何か良く分からんヒラヒラが一辺につき4枚ずつ付けられていて、仰々しい白い衣装を纏った神職っぽい人が三方に乗せられた点滴薬みたいな物を持っていた。
「とにかくそこに寝ちゃってよ。薬打つから」
俺が理解するのを拒絶するように医師は誘導した。
「てっきり俺はガスみたいなのを想像してたんですけど…」
「それだと何かヒドい事してるみたいじゃない。現代医学を舐めちゃいかんよ、君」
そう言いながら医師は俺の左腕に針を刺した。神職っぽい人は大幣を振りながら、かしこみかしこみ…とかやってる。その時、こいつから受けた説明を思い出した。
『君の肉体は活動を停止します。そうすると肉体から切り離された霊と精神が残るのね。これを別の場所に移してもらう事が本政策の肝です』
肉体が物理的に死ぬのはいい。この薬で説明がつくから。でもその後は…??
「先生、別の場所に移して『もらう』って…どうやって……?」
「ん~?神の力を借りるんだよ」
「おい、現代医がk…―――――――。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます