ミガトヒラア ~死後の世界は神代の世~
碑文谷14番
プロローグ
第1話当選1
――ジョージア州エルバート郡
1980年に建てられた花崗岩のモニュメントには8ヶ国語の言語で『10のガイドライン』が記されている。
6枚の厚い石板は1枚が中央に立てられ、4枚がそれを囲む形で並び、その上に1枚がキャップストーンとして置かれている。
中心の円柱には一方の側から反対側へ抜ける穴があり、北極星の方向を見通すことができる。同じ柱には細い横長のスロット穴が開けられ、太陽の冬至・夏至、春分・秋分と同調するよう作られている。キャップストーンにある7/8インチの開口部は毎日正午に太陽光線を通し、中央の石を照らすことで日付を示す。
このような天文学的仕掛けや、その風体から『アメリカのストーンヘンジ』とも呼ばれているが、真の目的は石版に刻まれた『現代の十戒』を示す事だ。
北側から時計回り順に、英語、スペイン語、スワヒリ語、ヒンディー語、ヘブライ語、アラビア語、中国語、ロシア語で書かれた内容はこうだ。
【健康性と多様性の向上で、再産を知性のうちに導く】
【新しい生きた言葉で人類を団結させる】
【熱情・信仰・伝統・そして万物を、沈着なる理性で統制する】
【公正な法律と正義の法廷で、人々と国家を保護する】
【外部との紛争は世界法廷が解決するよう、総ての国家を内部から規定する】
【狭量な法律や無駄な役人を廃す】
【社会的義務で個人的権利の平衡をとる】
【無限の調和を求める真・美・愛を賛える】
【地球の癌にならない - 自然の為の余地を残すこと】
そして10のガイドラインはこの一文から始まる…
【大自然と永遠に共存し、人類は『5億人以下』を維持する】
――――
20xx年、日本――
「NWO指導の元、各国で賛否両論を巻き起こしている人口問題につきまして、日本が提示、施行した『手水政策』が新たな火種となっているようです。」
病院の待合室のBGM代わりになっていたテレビからは、物心つく頃から聞かされていた人口削減について、学のないコメンテーターや頭の硬い評論家が着地点のない論争を繰り広げていた。
増えすぎた人類の人口を5億以下とする為、今まで手を替え品を替え色々やってきたそうだ。
故意に戦争を起こしたり、年寄りにしか効果のないウィルスを作ったり、生殖機能を破壊する趣向品を流行らせたり…
そんな中この日本に近年始まった人口を削減する方法が『手水政策』だ。
詳細が明らかになっていない為この政策に反対する勢力や、内容を開示するべきと主張する団体も現れ、今やワイドショーで聞かない日はない。
「今泉さーん。今泉拓也さーん」
病気でもない俺が何故病院にいるかというと…
「えーと、あなたが今泉くん?今泉拓也くん?」
氏名の確認を終えると、初老の医師は俺がここにいる理由を教えてくれた。
「送られて来た資料には目を通したと思うけど改めて説明するね。先ずは当選おめでとう。あなたは『手水政策』の被行者に選ばれました。やったね。」
喜ぶべきなのかどうかは皆目見当もつかない。だって資料を読んだけどイマイチ要領が掴めなかったし、体のいい安楽死だなぁ、くらいの印象しか受けなかった。
医師の「やったね」発言に対してリアクションを取り損ねている俺に目もくれず説明は続いた。
「本当なら親御さんとか親族の方にも説明させてもらうんだけど、君の場合は身寄りがいないから頑張って一人で理解してね。数日後に君は死にます。」
確かに身寄りはいないけどそういう事は何かに包んで言えや。初対面だろうが。
医師の人となりに何となくの疑問を抱いたが、「死」というワードの重要さがそれを上回った。
「やっぱ死ぬんですか」
俺の月並みのコメントで医師の説明に拍車がかかった。
「死ぬっちゃ死ぬんだけどね、そうじゃないの。ゆっくり理解していって欲しいんだけど、君の肉体は活動を停止します。そうすると肉体から切り離された霊と精神が残るのね。これを別の場所に移してもらう事が本政策の肝です。君は君のまま新しい世界へ旅立てるんだよ。すごいね。」
「はぁ、2割程度は分かりましたけど…。身体はどうなるんです?」
「遺族がいるならその御意向に従うけど、今回はそうじゃないから君が決めちゃってよ。残す?いらない?」
うーん…。いらない!だってその頃にはもう関係ないんでしょ。
遺体は残さなくていい旨を伝えた。
「そう?よかった。下手に残されても困るからねー。維持も大変だし。ではここからは秘密のお話になるし、めちゃくちゃ重要だからしっかり聞いてね―――…。」
ちょっと腹の立つ医師の口から、公には公開されてないこの政策の真実を聞いた。
NWOの掲げる人口削減は先進国が主立って動いていて、日本にもその義務と責任が重くのしかかった。
この先も国を維持していく為には無差別的な人口の削減は許されない。国民の感情に大きく関わるからだ。
先ず減らすべきは犯罪者だという意見も出たが、暴徒と化される危険性があった為これを見送り、最初の犠牲になったのは年寄りだった。
医療保険や年金制度を廃止して、財の無い老人は瞬く間に亡きものにされた。保険が効かなくなった事で病気を患っている人も多くが消えた。
次に狙われたのは、これから生まれてくる子供だった。妊娠中に感染すると満足な形で出産できなくなる病原菌をばら撒いたり、精巣や卵巣の組織を破壊する薬物を市販薬に混ぜたり、同性愛を推し進めるプロパガンダを行い出生率を下げていった。
医療に関しては治療という面で技術が著しく失われたが、人口を減らす技術は確実に進歩していた。
そんな中誕生したのがこの『手水政策』だった。一般市民レベルの情報では、ある日突然選ばれて薬物を投与され死んでいく…、そんな認識だった。こんな物が何故国会の場で立案され可決したのか、それは施術を受けた者の死の先にあるという。
ただ死なせるのではない、その向こうにある永遠を与えるのだと…。
国だって人を殺したくてやってるんじゃない、そうせざるを得ないからやってるんだ。だから少しでも死の中に希望を見出したい、ポジティブなものにしたい、そういった願いから出来た政策なのだ……
…と、語る医師の鼻から盛大に飛び出した鼻毛にやっぱり腹が立った。
「そもそもこれに選ばれる条件ってのがね、純血の日本人である事、年齢が16歳である事、そして徳が高い事なのよ。誰でもいいわけじゃないのね。だから『おめでとう』なの」
「ちょっと待てよ。16歳の日本人ってのはいいですけど、徳の高さなんてどうやって調べるんですか。それこそ死ななきゃ分かんない事じゃ…」
俺の素朴な疑問に対する医師の返答が予想を遥かに超えていたせいで、それ以上は問えなかった。
「何言ってんの?見られてるに決まってるじゃん」
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