ダリアの花は戦火に笑う



 地は煤け、空は爛れた、血と瘴気の混ざる腐った戦場。


 積み上げた屍と屑鉄の山で、のんびりと新聞を眺める彼女はダリア。

 かつて『花の英雄』と呼ばれた彼女は、すでに殺意と失望の海に溺れて死んでしまったのだ。


 ここにいるのは、虐殺と復讐を繰り返す、ただの機械だ。

 ダリアと言う名の、殺戮兵器。

 そんな彼女が、いま目線で追っている号外には、王国特有のミミズがのたくったような文字でこう記されていた。



『強キ者集イシ、猛ル戦イノ祭典』



 「最強決定トーナメント」――――― 一風変わったネーミングだが… 悪くない、と彼女は思った。

 先ほど首を刈り取った、王国兵士の懐にこれが入っていたのだ。

 おおかた、休憩中にでも読むつもりだったのだろう、娯楽の少ないこの世界で『新聞』とは実に有意義なものなのだ。


 まあ、それはこの際関係ない。

 この祭り、出ない手は無いだろう。

 そう考えたのだ。


 もうすでに、憎き王の首は貰っている。

 復讐の合間に息抜きをしよう………… そこで、暇潰しも兼ねてこれに出てみれば良いのではないかと。

 どうやら世界各国から、猛者と言う猛者が集まるらしい。

 普段よりも、少しは歯応えのある戦闘が味わえるかもしれない。



「斯様な宴、馳せ参ずるのもまた一興…」



 山を蹴って飛び降りた彼女は、手に持っていた情報誌をその場に放り捨てた。

 


「ククク…ッ、まさか余が、このような俗物になぁ……?」



 ダリアは笑いが止まらない。

 ただ… ただ、愉快で愉快で堪らないのだ。


 匂う。

 匂いがするのだ。


 戦禍の香りが、血の焼ける戦場の香りが、彼女の鼻を刺激するのだ。

 いわば彼女も、ひとりの戦狂いだったということだろう。



「嗚呼、素晴らしきかな… 胸を埋め尽くすこの気分は、なんと言い表せばよいのか?」



 幸せな気持ちをそのまま、地に転がった亡骸の頭蓋を踏み抜く。



 昇り出す日に向かって歩む。

 枯れた戦野に咲く一輪のダリアの花は、ただひたすらに、狂気のように美しかった。

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