第5話 リェマ領の実態


セルマは笑っていた。城の前で。俺を見送ってくれている。

「さよなら、リトラス」


さよなら?妙だな。いつもならお気をつけてじゃないのか?リトラスは笑顔を返す。

セルマは笑っていた。城の前で。足元にあるのは大量の死体。血の海だ。

「さよなら、リトラス」


声が出ない。自分の喉に手を当てると、何かが刺さった。爪だ。血の海に映っているのは黒い吸血鬼の顏。

「さよなら、リトラス」



「セルマッ!」

目を開け、大声をあげ手を伸ばす。そこは岩肌の剥きでたままの天井だった。ベッドには安っぽい布団。薄い毛布が一枚だけかけられている。

「起きたかあんた」

声をかけられハッと振り向く。部屋のテーブルにはカラカラのピッチャーと消えかかった篝石が置いてあった。そして、一人の男性が腰掛けていた。


「ずいぶんとうなされちゃいたが、起こした方が良かったかい?」

目を閉じ、半端椅子で眠ったまま男は言った。本来は、今いるベッドはこの男の物なのだとリトラスは察した。

「いや‥どっちでもいいよ。もう起きたし」

「おまえ、どこから来た」

男の眼光がリトラスを睨む。疑いの眼だ。

「新人にしては見た事ねぇ服だ。入山証明書も持ってない」

「賊にパクられたんだよ!奴らひでぇ‥」

リトラスの愛想笑いに、眼光がさらに鋭くなる。

「なら腰の巾着にある篝石はどう説明する。賊なら全スッパだろ」


リトラスは顔を見られるのを避けた。俯きがちに切り出す。

「‥‥事情は言えない。落ち延びて来た」

「そうかよ‥」

男は軽く笑うと、部屋隅の壺から水を飲んだ。底を柄杓が擦る音が聞こえる。

「オレぁ、シゲヤだ」

「トラスだ」

シゲヤは壁に立てかけてあるピッケルを持つと、こびりついた冷えたヒゥシを石で剥がし始めた。

「オレは面倒事が嫌いだ。一休みしたら出てけよ」


リトラスはその男を信用出来るか考えていた。ここで情報を得ねばディートヘルムと別行動を取った意味がなくなる。

「な、なぁ!」

「あぁ?」

シゲヤは不機嫌そうだ。しかし、自分が動かねばリェマの吸血鬼は殺せない。リトラスは覚悟を決めた。

「リェマの吸血鬼について教えて欲しい」

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