第4話 坑道の男
リェマ領。液体金属ヒゥシを主に財政源としており、その産出源の炭鉱が数え切れないほど作られている。
沈みかかった月が照らしだすヒゥシの輝きは、炭鉱夫らの命を削る邪悪な光だ。ヒゥシの気化したガスは勿論のこと、加工時の蒸気にも危険性はある。
液体金属ヒゥシはインヴェンクルスでも生活に使用されているものの、加工前は有毒性が高い。しかし、インヴェンクルスでもその事実を知るものは大方がリェマ領の人間のみだ。
炭鉱夫のシゲヤもその一人だった。
夜の鉱山は辛い。暗い坑道は篝石の首飾り無しでは全く見えない。重いピッケルは骨身にこたえるし、ガスマスクはフィルターが切れかけだ。しかし、彼には金を稼ぐ必要があった。
「はぁッはぁッ‥ふッ‥」
息を整えてピッケルを振り下ろす。ガキン、と派手な音を立てて岩を砕く。するとヒゥシの鉱脈に当たる感触。すぐさまシゲヤは壁にバケツを寄せる。ポタリ‥ポタリ‥と壁から滴り落ちるのは光沢を放つ銀色の液体、ヒゥシだ。
しばらく液体が溜まるのを見届けてから、バケツを回収する。底をわずかに銀色が満たしているのを確認すると、もう一度ピッケルを担ぎさらに奥へ入っていく。
毎日、毎日が変わらないとシゲヤは思った。体に毒を貯めながらヒゥシを集めても、商人には大した金額で買われない。高額な鉱山利用費とフィルターの費用を差し引いて残るのは、僅かな篝石のみだ。その日暮らしが精一杯なのだ。
「‥‥‥」
シゲヤは一言も喋らずに暗い坑道を歩いていく。少しでも余計なエネルギーを使いたくなかった。それは坑道の奥で倒れている人間が目に入っても一緒だった。
「金髪‥‥?」
珍しい、とシゲヤは思った。恐らく新人採掘者だろう。よくあるのだ。ヒゥシの毒気にやられ気を失う。そうなった者は死へ至るのみだ。
隣を通り過ぎようとした時、わずかに指先が動いたのが見えた。今ならまだ助かるかもしれない。バカな考えがシゲヤの頭をよぎる。
どうせ助けたところで何も変わらない。
しかし...
「ッ‥‥」
無言でシゲヤは金髪の男をおぶると、暗い坑道をゆっくりと進んだ。その男をなぜ助けようと思ったのか。もしかしたら今の生活が明るくなるとでと思ったからか、または心の片隅の良心が働いたからか?
それは彼にも分からなかった。
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