第3話 吸血鬼の集い
暗い城内には、円卓に座る七つの影があった。壁には仄かに揺れる篝石がはめてあり、厳粛な雰囲気を感じさせた。
「第一階級以外は滞りなく完了ですね」
目を閉じた女性が言った。優雅な服装だが、その表情はどこか悲しげだ。
「当然だ。我ら第三階級は国の基盤。そしてステンノ、貴様が失態など犯すはずもない」
そう言ったのは髭を伸ばしているものの、口から八重歯の見え若々しい老人だ。老いを感じさせない生気を放つが、落ち着きも感じさせる。
「つまりあの阿呆さえ来ればこの無価値な会議から帰れるわけだ!」
怒りを交えてそう叫んだ赤い男は、2m近い巨躯であった。両腕から赤い炎が所々メラメラと燃え飛び出している。切り揃えられた黒髪は整然さを感じさせ、着ている制服には赤い狐が描かれている。
「奴は阿呆というより舐めているのでは?」
足を組み、円卓に肘をついた男は自信ありげに語る。爵位を示す正装をしているが、他の者に比べれば威圧感の薄さを感じる。
「私はそうとも言い切れないと思うがね」
片眼鏡の男は意味ありげにぼやく。ボロボロのチェックのコートを纏い、手元には本がある。
彼らを眺める影は二つ。壮大な玉座に座る男とその傍の車椅子の女だ。彼らは円卓の会話には混ざっていないようだ。
その時、部屋に続く扉を何者かが開けて入ってきた。耳に奇妙な機械をつけた、煌めく髪の青年だ。黒くたなびくパーカーを着ている。
「うぃっす!遅くなりやしたっ!」
言っている内容に、反省のかけらも無いと感じさせる態度を即座に示すのはもはや才能だろう。
「十刻の遅刻だ!儂の十刻に見合う理由があるのだろうな!」
赤い男が怒気迫る顔で叫ぶ。聞くものが聞けば恐怖のあまり固まってしまうだろう。
「っせーよプロムの旦那。今から報告するっつーの」
「少し落ち着きなさい、ノイズ」
「サンキューご隠居」
ヘラヘラと笑うノイズは広間の中央付近まで歩くと、壮大な玉座を座る者に片膝をつきこうべを垂れた。
「...報告せよ。ノイズ・サウンデュオ」
煌めく髪の吸血鬼は真剣な顔つきになった。玉座に座る者にその玉虫色の瞳を真摯に向けた。
「はっ!第一階級は一領を除き完了いたしました。その一領につきましては現在血樽を輸送中です」
「...ノイズ、貴様が第二階級にと進言したリトラスとやら。姿が見えぬようだが?」
一同の視線がノイズへと向く。それを受けてなおノイズは真剣な顔つきを崩さない。
「申し訳ありません。上地献身を依頼したマッカート領の吸血鬼は殺され、領主は行方が知れぬものとなっており現在捜索中です」
赤い吸血鬼は眉が寄り、目を閉じた女吸血鬼は小さく笑った。
「ザルカの奴らか?」
「分かりません。現状ではなんとも」
嘘だ。リトラスが面会をした際に見た黒い吸血鬼、あれからは砂と血の匂いがした。ザルカの者ではないが、この国のものではない。
「如何なる罰も受ける所存です」
「よい、この件は貴様に預ける。捜索と調査を急げ」
ノイズは深々と頭を下げる。その仕草からは玉座に座る者に畏敬の念を持っているようだ。
「はっ!それでは早急に」
この問題は自らの手で解決すると、ノイズは自分に言い聞かせた。
「待って、ノイズ」
足早に去っていく青年を目を閉じた女吸血鬼が呼び止めた。
「はい?」
「...ふふふ、なんでもないわ」
ノイズはわずかに目を細めると、何か分かったように笑った。
「愛してますよ、姉御」
「私もよ」
答えを聞くとすぐさまノイズは走り出した。その横顔には、部屋に入ってきたときの軽い笑いは無く、真剣そのものだった。
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