第6話 二人と二人


ディートヘルムはリトラスと別行動を取っていた。


「釣れん」

「そりゃそうだよあんちゃん」


ディートヘルムは湖にいた。傍らには老人。二人とも竿を持って釣り糸を垂らしている。

「‥‥釣れないぞじじい」

「そりゃそうだよあんちゃん」


「だって餌も針もあんちゃん付けてないよ」

「だが竿を垂らせば‘魚’が釣れると聞いたぞ」

「えぇ‥‥」

「あいつは嘘をつかない」


リェマ領のイッドナ湖。数年前までは澄んだ水が有名だったが、鉱山の泥が流れ落ちて今や水下数センチが見えない。

静かな湖畔には遠くに採掘場の光が見えるだけで辺りは暗い。二人の篝石だけが小さく光っていた。


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「リェマの吸血鬼を教えろ、だと?」

シゲヤはその言葉を疑った。目の前のトラスという男は、何をしようとしているのかさっぱり想像がつかない。

「なんでもいいんだ!どこで見たとか...どんな外見とか!ほんとになんでも!」

必死さがシゲヤに伝わる。先ほどまで目が泳いでいた男とは思えぬほど、トラスには勢いがある。


それはシゲヤに疑念を持たせたが、同時にこの男の素性を想像させた。

「レベッカに追われてるのかい?」

「まぁ...それに近い」

この男、何をやらかしたのか。しかし素性は言えないらしい。シゲヤは軽く舌打ちすると、部屋の扉の鍵をかけた。

「‥‥これは独り言だ。そしておまえは誰から聞いたか言わない‥しくってもだ」

「当然」

トラスの顔が真剣みを帯びる。


「レベッカはリェマ領の領主だ‥姿は一度しか見た事ないが、そん時は銀のなんかを纏ってた。そう、ちょうどヒゥシみたいな銀色だ」

篝石の光が揺れる。シゲヤの口調は低く、目は空を見つめる。トラスは一言一句聴き逃すまいとしながら、レベッカ殺害計画を立てた。

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