第12話 吸血鬼殺し
しかして、轟音が響き渡った。
割れた壁が落ちる音が砂埃の中僅かに聞こえる。砂埃が晴れると、現れた結果は驚きのものとなっていた。
ディートヘルムによるフルスイングの頭部はジェリコ腹部を貫通したまま、体もろとも壁に叩きつけていたのだった。
「ハガッな...」
腹部を抑え、よろめきながらジェリコは立ち上がろうとするも再度よろける。そして気づく、自分の腹部に大穴が空いていることを。
「おでさまの...?は...」
そのままジェリコは後ろ向きに倒れた。
「き、貴様ら...なんという事を...ありえん」
あり得ない、と言いたげにフルフェイスの吸血鬼が数歩さがる。そこに一瞥もくれず、納得がいかないという表情でディートヘルムはジェリコを見つめた。
「なぜ、やつは血統を使わなかった分かるかリトラス」
「想像はつくが...恐らく奴は掌か腕でしか切断出来なかったんだ」
ディートヘルムも、ジェリコが足を使わず腕のみで攻撃していた事も納得がいった。
「本当に...吸血鬼を殺せちまったんだな」
「あぁ」
リトラスにとって吸血鬼とは絶対強者である。しかしそれがほんの一瞬で死んだ。吸血鬼を殺せた。その事実は驚きと高揚、そして恐怖心をもたらした。
自分は今、絶対の存在を殺したのだ。
腹に穴が空いた死体を他所に、ディートヘルムはあともう一匹の獲物へと視線を向けた。
「さて、ディナーにはもう一品欲しいところだが?」
フルフェイスの吸血鬼は後ずさったが、足元の死体に転びかける。
「ッ...!貴様、俺とて吸血鬼なのだッ!簡単に殺せると思うな」
発言とは裏腹に、その様は逃げ腰である。既に半身をとっている。
ディートヘルムは鼻で笑った。
「ならばおまえから来い。俺は片腕だぞ?」
「ぐっ...」
リトラスは両者を見比べた。フルフェイスの方は戦意こそ失いかけているものの、五体満足な上に消耗していない。血統も不明。だというのに及び腰だ。
対してディートヘルムは明らかに相手の先手を待っている。恐らく血統を警戒してのことだ。相手がなんの能力を持っているか分からない以上、下手に動くわけにはいかない。
フルフェイスの吸血鬼、サーチは恐怖していた。片腕を失ってなお戦う黒い吸血鬼の戦意にか?否、そうではなかった。
(吸血鬼の肉体にたかだか投擲で穴を開けるだと?なんというパワー!こいつらは気づいていないが、俺は殴りをまともに受ければ死ぬ!)
止まらない汗。絶対の力だと思っていた、吸血鬼の身体能力と血統。その考えが同種の存在を前にすれば、井の中の蛙であったことに今更にして気づく。
(その上、まだ血統を有しているのかコイツは?俺に勝てっこない!不可能だ!)
「て、停戦と行こう」
サーチが導いた結論はこうだった。
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