第11話 ズッパリズパン


「悪いが断る」

ディートヘルムは言った。


リトラスは笑った。最後の望みが絶たれた。もはや吸血鬼という最低な種族に報復など不可能になった。

「そう...だよな...」

「あぁ...」

ディートヘルムは口角を耳まで上げるように、笑った。

「だが、奴らの血ならば話は別」


「こいつらもなかなかに美味そうな匂いだ」


リトラスは言葉を失った。何を言っているのか理解出来なかった。

「奴らの血を食らう、その条件でいいな?」

その笑いをリトラスは知っていた。ノイズに会った時、見た笑いだ。

「あ、あぁ」

本能的な恐怖がリトラスを覆う。目の前の黒い吸血鬼は味方であるというのに、恐ろしいのだ。

「さて、ディナーの素材諸君」

笑い続けていた二人の吸血鬼はこちらを見る。

「...あ?野良吸血鬼が調子乗んなよ」

「クックック...」

片耳とフルフェイスは威圧的に迫る。

「どちらから先に食われたいか?それとも二人まとめて腹に収まりたいか?」

「ハッ野良狩りされた事ねーのかよ...烈空のマッカート、聞いた事ないか?」

得意げに言う片耳を見ながら

「ない」

ディートヘルムは言い切った。フルフェイスは再度笑い出す。

「ククッ!ジェリコ、お前は血統名すら知られとらんようだぞ」

「...殺す」

次の瞬間、ジェリコと言われた片耳の吸血鬼が消えた。そのようにリトラスには見えたのだ。

ジェリコが移動したのはディートヘルムの後ろだった。背後から、肩口に摑む。ディートヘルムはカウンターを入れようとするが...


刹那、音が消えたように感じた。

「ッオォォォオオ!!」

ディートヘルムの左腕が無くなっていた。比喩ではない。肩口から腕という腕がスッパリと消失し、血が絶え間なく出ている。

「なにをした...?」

「ギャハハハ!ズッパリ!ズッパリだ!」

リトラスは思考を回転させる。

「血統だ!マッカートの血統は切断する能力なんだ!」

ニヤリとジェリコが笑う。その眼には鈍い緑の眼輪が光り輝く。

「そうともだぜ!ジェリコ様は触れたものはズッパリズパン!どんな硬かろう強かろうと関係ねェ!」

高笑いをしながら語った。

「触れたらアウトか?...それは強いな」

左腕が無くともディートヘルムは右腕をジェリコに向けた。戦意は喪失していないようだが、攻め手が見えないのだ。

「助けはいらんな?」

「とーぜんだぜサーチ!テメェはそこでこいつが細切れになるのを見てろ!」

言い終わった直後、ジェリコは攻撃を再開した。両手をディートヘルムの胴へ押し当てようと、振り回しがむしゃらに突撃する。反してディートヘルムは触れればダメという条件ゆえ、反撃ができず回避に徹している。

「ハハハハハ!当たれば次は右腕もだぜ!」

「くッ...」

明らかな隙がジェリコにあるが、ディートヘルムは見ていることしか出来ない。

「ほれ!ほーれ!殴ってみろよォ!ズパンだけどな!」

技術も知識もない、ただの連打だ。

(血統とやらがここまでとは。逃げればリトラスは死ぬ)

が、リトラスは諦めていなかった。

「ディート!死体を投げろ!切断されても時間稼ぎになるはずだ!」

「...!承知した!」

ディートヘルムは死体の頭を掴んだ!目標は前方の片耳の吸血鬼!

「なっやめろ!」

投げられた死体は吸血鬼の怪力で自然と引きちぎられ頭部のみになり、一直線にジェリコに飛んでいった。

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