第8話 吸血鬼の本性


リトラスは即座に己の行為を、己の発言を悔いた。


「私があなたに会いたかったのです」


沈黙を貫いていたディートヘルムがポツリと言葉を発した。

「聡明かつ信頼の置ける方と聞いたので」

言葉を続ける。

「...」

玉虫色の目から光は消えていない。ノイズが血統を使用すれば、二人とも即死する。

しかし...

「なーんだよ!俺様の天才さを見に来たファンか」

ニタリ、と再度笑い顔になるノイズ。同時にリトラスも心の中で大きく安堵する。

「そうならそうと言えよなリトちゃん」

胡座を組み直し、体を揺らしながらノイズは笑って言う。この天気屋が、と内心リトラスは愚痴をこぼす。

「申し訳ありません」

リトラスは頭を下げる。ノイズはさらに笑った。

「ヒヒ!気にすんなよ!リトちゃんはしっかり納品すっから特別大目に見てやるさ」

「ありがとうございます」

頭を上げるリトラスは安堵の表情だった。リトラスを真似て頭を上下させるディートヘルムは、同じくリトラスを真似て頬の筋肉を引攣らせる。

「ところで、リトちゃん」

ヘラヘラと笑いながらノイズは指を鳴らす。

「シードルの話は聞いてっかい?」

「第一階級の領主ですか?」

「そうそう」

高い音を立ててノイズの背後の扉が開き何者かが入ってくる。先ほどの女だ。暗くて人間の目にはよくわからない。

「特に耳にしておりませんが」

それを聞くとノイズはいつもより嬉しそうに笑った。

「実はさ、シードルは納期怠慢をしたんさ」

まるで三日月のような笑みを浮かべている。

「リトラスはどうするべきだと思う?」

「即刻、殺害し別の領主を立てるべきかと」

リトラスは即答。ノイズがどんな答えを求めているか理解しているのだ。無論、理解していようとこれほど無情な答を即座に答えられる者もそうはいない。

「ハッハー!分かってるねリトちゃん」

ノイズは歩み寄るとリトラスと握手を交わす。そのまま耳元に口を近づけるとわずかに囁いた。


「おまえは失望させるなよ」


そのまま振り返ると後ろに手を振りながら歩き始めた。

「じゃあ、達者でなぁーリトちゃーん」

「はっ。ありがとうございました」

深々とお辞儀をするとリトラスも部屋から出て行った。ディートヘルムもとりあえず深々と頭を下げ、退室した。その間際、夜目が利くディートヘルムの目に何かが映った。部屋に入ってきた女が持っていたのは人間の生首だった。

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