第2話
そんな君の名前は日向桃乃。
僕の一目惚れだった。
受験生だという現実が否が応でも押し付けられる高3の春、君を見かけた。
隣の塾に通っていた君はもちろん僕のことなど知っているわけもなく、昔から意気地無しな僕は1年間、声をかけることができずに、大学に進んだ。
今僕が通っているのは赤門で有名なあの大学だ。
ちょうど2年前の今日、僕は君にこの門の前で出会った。
まさか、同じ大学に進むなんて…
目に見えている光景が信じられず、僕は二、三度ばかり目をこすった。
が、やはり彼女だった。
驚きのあまり唖然と立ち尽くしていたら、彼女と目が合ってしまった。
やってしまった…
でもどうしたことだろう、彼女がこちらへ向かってくる。
急いで視線をそらしたが、遅かった。
向かってきた彼女は僕の目の前で立ち止まり、顔を伏せた僕の顔を覗き込むように言った。
「こんにちは!もしかして、ごろーくん!?桃乃だよ!日向桃乃!ほら、幼稚園のころ一緒だった!」
なんで、僕のことを知っているんだ…
僕の本名は牟呂翔悟で、牟呂の呂と翔悟の悟をとって、ごろーという渾名で呼ばれていた。
本日2度目の驚きだ。
幼稚園の時のことなど、遠い昔の記憶以前に全く覚えてすらもいない。
でも、かすかに覚えていることがひとつ。
僕には幼稚園の頃、仲良くしていた女の子がいた。
確か僕はその子のことを"ももちゃん"と読んでいたような…
ももちゃん……
そうか、やっとわかった。
"ももちゃん"は、彼女"日向桃乃"なのだ。
高3から想い続けてきた彼女はまさかの幼稚園の頃の同級生だったのだ。
こんなことが本当にあるのか。
確か、"ももちゃん"の家は僕の家の隣で、いつだったか引っ越してしまったはずだ。
「あ、幼稚園の年長さんの時に引っ越しちゃったんだけどね笑お家が隣だったでしょ?」
やっぱりそうか。
「こんにちは。随分と久しぶりだね。"ももちゃん。"元気にしてた?」
震える声帯を一生懸命抑えて言い放った僕の精一杯の"ももちゃん"への挨拶だった。
花が散る季節 rape blossoms @canola_flower
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