菓子達の観察日記

@boko

菓子達の観察日記

1日目 

可愛らしい絵が描かれているクッキー菓子を「チョコ味」「いちご味」と各一つ買ってきて中身を取り出した。

各6個

計12個のクッキー菓子を大判雑誌ほどの大きさをした板の上に置いて観察を始めた。

この観察の為にカメラをわざわざ買ったのである。それほど私はこの観察を真面目に行おうとしているのである。

それぞれのクッキー菓子には絵が描かれており。

チョコ味は「メガネを掛けた絵柄」「クッションを持った絵柄」「カンガルーの様にお腹に子供を入れる袋がある絵柄」「せんべいを食べている絵柄」「布団で寝ている絵柄」「歯を磨いている絵柄」

これらをそれぞれ『メガネ』『クッション』『カンガルー』『せんべい布団』『はみがき』と呼ぶことにする。

いちご味は「スノーボードを持っている絵柄」「太鼓を叩いている絵柄」「薔薇を持った絵柄」「怒った表情をした絵柄」「ロケットにしがみついている絵柄」「笑顔の絵柄」

これらもそれぞれ『スノボー』『太鼓』『薔薇』『怒り』『ロケット』『笑顔』と呼ぶことにする。

この菓子達を小さなクリアケースに入れ観察を開始する。


見た目に何も変化は無いが起き上がった菓子達は辺りを見渡すと他の菓子達とじっと見つめ合いながら言う。

「ここ何処?」欠伸をしながら『クッション』が周りの者に問いかけると『メガネ』もそれに同意して言葉を発した。

「それは私も聞きたい。そもそも私は誰なのであろうか?何も覚えていないのだが私を知っている者がこの中にいるか?」その言葉に皆が黙り込む。誰もこの場所に来る前の記憶が無いのである。

菓子達は小麦粉、カカオしかり別の物が組み合わさって出来るものである。

カカオ達にも生きた記憶は有る。

他の材料も記憶は有る。

だが、そんなものは組み合わさる際に消え去る。

この菓子達は目を覚ましたのと同時に誕生したのである。

だから記憶は無い。あるはずもないのだ。

菓子達は黙り込みじっと下を見るもの、誰かが言葉を発してほしいと辺りをキョロキョロと見渡す者様々な反応を示している。

「‥とりあえず自己紹介をしませんか?話をすれば何かを思い出すかもしれませんし。」『薔薇』の提案に皆同意し皆が自己紹介を始めようとする。

だがしかし誰も記憶が無い。それ故に皆が皆自己紹介をしようとすると言葉に詰まってしまい「何も覚えていない。気がついたらここに居た。」というテンプレートな回答しか出てこなかった。

全員が言葉に詰まってしまった所で『メガネ』が話を始める。

「皆何も覚えていない。とりあえず皆さんそれぞれに呼び名をつけませんか?誰かを呼びたい時に呼び名が無いと困るじゃないですか?」皆がそれぞれの顔を見合わせ、その案に同意する。

表面に描かれている絵柄の特徴で決められた。つまりは私が最初に言った『メガネ』等の名称である。

「さて、これからどうしましょうか。」

「とりあえず歩いてみましょうよ。もしかしたら何かがあるかもしれませんし。」『笑顔』の提案により菓子達は歩きながら話を続ける。

だが、クリアケースに入れられている為途中で透明な壁にぶち当たるわけで‥。

「痛‥。」先頭を歩いていた『メガネ』が突然動きを止めたせいでその後ろに居た『薔薇』にもたれ掛かる。

「大丈夫ですか?」人間なら女性の柔らかさがうんたらとか言う表現が有るのだろうが菓子達だし、皆絵柄が違うだけで感触は同じだろう。だが、もしかしたら菓子達には筋肉や脂肪の配分がそれぞれ違っているのかもしれない。だが、そんな違いは人間である私には判らない。

「ありがとう大丈夫です。」『メガネ』は表情を変えぬままお礼を言って目の前の壁に触れる。

「何かあります。」『メガネ』と同じ様に『笑顔』も壁に触れる。

「うん。これは透明な壁があるね。これ以上は行けなさそうだ。」『笑顔』は微笑みながら言うが『怒り』は苛つきながら強い口調で話す。

「じゃあどうするんだよ。」

「どうしようも無いでしょう。もしかしたらこの壁に沿って歩いていけば壁が無い所に行けるかもしれないけれど多分そんな場所は無いと思いますし‥。」『笑顔』の言葉に『カンガルー』は続けて補足を入れる。

「まぁ、やってみるだけやりましょう。」


当然の如くクリアケースの中なのだから壁に覆われており出口なんて無いわけで一周ぐるりと回って見た所で何も無く大きな欠伸をした『布団』は皆に「疲れたし寝ない?」と聞いた。

「そうですね。私も疲れてしまいました。」と『薔薇』。

「たしかにそうですね。とりあえず寝ましょうか。」『クッション』もそれに同意すると直立していた菓子達はコテンと倒れてしまった。

数十秒経っても動く気配は無いのでクリアケースの蓋を開け菓子の1人『せんべい』を取り出す。

触れても何も反応を示さない。寝ていると動かない物になるのか‥。クリアケースに戻してそのまま放置する。

暫く経っても皆動かなかったので今日はとりあえずこれで寝よう。


二日目

目を覚ました菓子達は次々と起き上がり会話を始める。

「さて、どうしましょうか。ここから脱出する手段はなさそうですし‥。」『メガネ』の言葉に『布団』が答えた。

「別にいいんじゃない?何もしなくてさ。」その言葉に皆が『布団』の方を見る。

「別にさ、脱出しなくてもこの場所で皆と暮せばいいんじゃない?ここから出た所で何かがあるとは限らないしさ‥。」

「そうだね。別に出ていく理由も無いしね。」『せんべい』も同意する。

「そうですね。別に出なくても‥。」『歯磨き』も同意する。

「納得できないな。」『怒り』が反論する。

「しかし次に何をやるのかもわからない状況なので何も出来ませんよ。もう一回透明な壁に穴が開いているのかを探すのですか?」『カンガルー』の言葉に怒りは黙り込んでしまった。

結果『怒り』だけが納得いかないという態度を取っているが「この場所で何もしないでいる」という事が多数決で決まった。

そこからは他愛もない話が続いた。

好きなものから床の話。透明な壁の先には何があるのかとか解決もしない話が永遠と続き一日が終わった。


三日目

二日目と同じ様に他愛もない話で一日がすぎた。

だが、この話を観察しているとチョコ味の者はチョコ味同士。いちご味の者はいちご味同士での会話を好むことが分かった。

最初は別の味同士の会話もあったが時間が経つにつれて、会話を行う菓子達は自分と同じ味と話をするようになった。

最初に会話をした『薔薇』と『メガネ』さえ、会話を交わす数は減り『薔薇』は『笑顔』と『メガネ』は『カンガルー』と会話を行うようになっていった。

このままだと四日目も変化は起きなくなるのではないか?

四日目に菓子達が寝たら変化を起こすとしよう。


四日目

予想通り何も起こらず他愛も無い話を行うだけで一日が過ぎていった。

観察をしている限り無意識に同じ味との会話を好んでいるだけで別の味が嫌いという事は無いようだ。

私はクリアケースを開け一つの菓子を一つ取り出す。

描かれている絵柄は『スノボー』こいつを指で潰し菓子達が寝ている場所に置く。

粉々になったクッキー生地の中にあるいちごチョコレートがドロリと飛び出て血みたいだと思ったが、そんなものは観察に関係の無いことで、目を覚ました菓子達がどのような行動に出るのかが楽しみである。


五日目

目を覚ました菓子達は近くにある死体に気付き皆がそれを見る。

「なんですか‥。これ。」『薔薇』がまず言葉を出すとそれに続いて他の菓子も言葉を発した。

「なんか、甘ったるい。」『布団』が呟く。

「ピンク色の固体?に見覚えのあるものが‥。」と『メガネ』が薄い桃色をしたチョコレートに乗っかっているクッキー生地の破片の一つを持ちじっと睨む。

「スノボーさん‥。」『ロケット』が呟く。

「スノボーさんがいません‥。」皆気がついていなかったが、『スノボー』だけがこの場所にいないのである。

その言葉にハッと何かに気がついた『メガネ』がチョコレートの周りに散らばっている破片の全面を見始めた。

「これだ‥。」破片の一つをじっと見るとそれを他の菓子達に見せる。

そこには『スノボー』の先端が描かれていた。

「これって、スノボーさんの‥。」『ロケット』はそう呟くと他の破片を見る。

「これも‥。」他の破片を見る。

「これも‥。」他の破片を見る。

「これもそうです。」破片を見る。

「スノボーさんです‥。スノボーさんですよ!!スノボーさん‥。」『ロケット』は叫ぶが誰もが皆何も言えなかった。


我ながら非常に悪趣味だと思う。

だが、このまま何もせずにいたら奴らは平穏な一日を過ごし、平凡な話を行い、観察し甲斐のない日々を送ることになっていただろう。

それだけは避けなければならなかった。

だからこの犠牲は必要なものだったのだ。

この出来事をきっかけに菓子達の行動も変化したのだから間違っていないのである。

まず皆話さなくなっていった。

『スノボー』の残骸を見つけた時は皆何か言葉を吐いていたが、時が進むごとに皆の口数は減っていき、現在皆一言も話さずに一日が過ぎていった。

皆が自分以外信用していないのである。

そして皆睡眠をとる際中心に集まっていたのだが、この出来事から皆距離をとって睡眠をとりはじめた。


目を覚ます菓子達はまず周りを確認するようになった。

そして誰も潰れていないのを確認するとため息をつき無言でいる。

それが約二日。

無言の空気に耐えきれなくなったのであろう。

三日目の朝目が覚めると怒りが大声で話す。

「もうこんなのやめにしないか?」皆が『怒り』の方に注目している中声を大きくして話す。

「誰が犯人とか疑っても仕方がないだろ!!『スノボー』がこんなに粉々になっているんだぞ!!こんな事、俺達の力で出来ることじゃないだろ!!」正解なのだがその言葉に『ロケット』が異議を唱える。

「じゃあ誰がやったんですか!!」その反論に先程までの強い口調は消え「なにかだよ‥。」と小さな声で言った。

「何かってなんだすか!!」

「何かはなにかだよ!!そんなの俺にわかるわけがないだろう!!」『ロケット』の言葉に対して怒り気味に答えた。

『怒り』の言ったことは正解なのだが、観測者が手を下したなんて誰も目撃が出来ているはずもないので証明のしようがない。

「そうか‥。私達ではない何かが‥。」『メガネ』がポツリと呟く。

「そうだ、我々では出来ることではない。こんなに体を砕くことも、皆同じ時間で意識を失って同じタイミングで目を覚ましている‥。」

「1人で出来なくても誰かと協力すればあんな風には出来るんじゃない?あの破片を見る限り私達の体って薄くて脆そうだし。」『歯磨き』は自分以外の誰も信用出来ないという意思表示をした。

「その可能性も否定できない。だが、そんな事を行う動機も無いだろう?」

「そんな事を言っても裏で誰かが皆の事を恨んでいるかもしれないじゃん。スノボーだけが恨まれて殺されたのかもしれないけれどさ‥。」

「そんな事ありません!!」『歯磨き』のペラペラと続く言葉を止める為に『薔薇』は叫んだ。

「スノボーさんはとても優しかったです‥。こんな私と話をしてくれて、こんな私を褒めてくれたんです‥。」

「そんな事はさお前の考えだろ。他の奴と話す際の態度が悪かったかもしれないし、贔屓されていたんじゃないの?」

「そんな事はないです!!」

「いいや!!そんなのはお前にはわからないだろう?決めつけはよくないぜ。」今度は『薔薇』の言葉を遮る形で歯磨きが叫ぶ。

「まぁ、こんな事を言っても何も解決しないからな。私はここ数日と同じ様にこの謎に関わるつもりもないし誰も信用出来ないから近づいてくるな。」『歯磨き』はそう言うと「じゃあ。」と言い背中を見せた。

結局誰も信用できないという事は変わりなく皆他の者を信用出来ずに距離をとり、目を覚ましては誰とも話さずに一日を過ごしていた。

だが『怒り』だけは皆に話しかけては無視をされるという無駄な行為を繰り返している。


さて、再び行動を起こすとしようか。

次はどれを壊そう?

『怒り』は壊さないとして、他の何もせずにいる菓子を壊そう。

いちご味の菓子を壊したし、今回はチョコ味を壊そう。

『歯磨き』がいいな。

うん、そうだな『歯磨き』を壊そう。あれだけ大口叩いていたのだから壊された時の周りの反応が気になる。

『薔薇』が疑われる様に壊した後近くに置こう。

私は皆と距離をとって睡眠をしているはみがきのお腹の上に指を押し当て、力を加える。

真ん中だけに穴が空き穴からチョコレートが見えるが何も弄らずそのまま放置をして反応を調べてみよう。


目を覚ました菓子達の中の一つである『笑顔』が死体を見て可笑しな行動にでた。

「助けてください。助けてください。お願いです。私を助けてください‥。」『笑顔』が突然菓子達の目線で言うと空に向かってお祈りを始めたのだ。

「助けてください。お願いです。私を見捨てないで下さい。」何度も同じ言葉を吐いてはお辞儀をする。

「やめろ!!」『怒り』は『笑顔』に近づき怒るが、『笑顔』祈りをやめない。

「お願いします。死にたくないです。助けてください。死にたくないです。」笑顔のまま悲痛な叫び声をあげてお辞儀をしている光景は不気味であるし、他の菓子達にもこの行動がなにか恐ろしいものの様に見えているのであろう。

何度も何度も同じ行動を大声で繰り返す。

「助けてください。助けてください。お願いします。死にたくないのです。助けてください。助けてください。」

「やめろ!!」『怒り』は懇願している『笑顔』を殴る。

殴られた事で『笑顔』は不気味な言葉を吐き出すのを止めたが、『笑顔』は涙を流しながら下をじっと見ていた。

「こんな事何の意味があるんだよ!!」

「そんなのわからないですよ!!でも祈らないと、助けてって言わないと、次に殺されるのは私かもしれないんですよ!!だから助けを乞うんです。貴方から見て哀れで不気味に見えても祈るしかないんですよ!!死にたくないから!!死にたくないから!!」そう言うと再び空に向かって祈りを再開した。

予想と違うがこのまま観察を続けよう。


次の日、祈る者が増えた。

『薔薇』も空に向かって祈る者の1人になった。

『薔薇』が祈る姿を見て『メガネ』が一番困惑していたが、そんな事はどうでも良い。

このまま放置しておくとどのようになるのか観察を続けようと思う。


次の日、『太鼓』と『ロケット』が祈りを始める。イチゴ味で祈らない者は『怒り』だけになった。

チョコ味の者達は『怒り』以外の祈る行為に嫌悪感を抱き、存在を認識しないフリをし始めた。

『怒り』はこの件でチョコ組の者と仲良くなり、祈る者と祈らない者が完全に別れた。



さて、これ以上何もしないと菓子達の一日に変化が見られなくなってしまう。

そして数日間雑菌だらけの場所に置いてある菓子達である。

そろそろ処分しなければならない。


菓子達が寝ている間にチョコ組全員と怒りを潰し祈っていた奴らの近くに置く。

どんな事があっても今日で最後の報告になるだろう。


最終日

目を覚ました菓子達は死骸を見つけるとしばらく動きを止めやがて『笑顔』がクスクスと笑い始めた。

「やっぱり私は間違っていなかったんですよ。だって、祈らない奴らは死にましたよ!!やっぱり祈ることで救われるんですよ!!それなのにあの馬鹿達は私達を哀れな目で見て!!馬鹿か!!ざまぁミロ!!」その声につられて他の菓子達もクスクスと笑い始める。

「哀れだわ全くもって。あのメガネめ!!哀れみの目を私に向けた報いを受けたんだわ!!本当に爽快だわ。」

「ふふふ、私達だけが助かってあいつらは死んだ。祈り続ければ私達は死なない。ふふ、ふふふふふふ‥。」

あぁ、気持ち悪い。あんなに怯えていたのに卑しい表情をして全くもって気持ちが悪い。

この観察がおぞましいものに思えてきた。

潰そう。こいつらを潰してこんな事終わらせよう。

グチャリと笑っている菓子の1人を潰すと他の菓子は「えっ?」と唖然としながら潰れた菓子の方を見る。

そんな事はお構いなしに私は菓子を指で潰す。

潰す。

「気持ち悪い。」全てを潰してソレらをゴミ箱に突っ込んだ。

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