甘くて危険なふたりの絆!?
甘くて危険なふたりの絆!?①
『政府からのお知らせです。スコヴィラン及びプリッキーによって住宅が被害に遭った方。支援金が受け取れる仕組みがあります。罹災証明書は、お近くの窓口もしくはホームページから――』
首相の出演する政府広報CMが、ピンク色の部屋へ虚ろに響く。
ベッドに腰掛け、スナック菓子『激辛女帝デスカライヤ』をつまみながら、セブンポットは退屈気にチャンネルを変えた。
『私は断じてこの判決をッ、許せません……他人の人生を奪い、のうのうと……』
次のチャンネルでは、懐かしい映像が流れている。
一九九五年。『プリッキー化している間の犯罪に責任能力無し』と初めて結論が出た裁判後。家と七歳の息子を失った遺族が無念を訴えたニュース映像だ。これはテレビで繰り返し流され、世論形成に一役買った。
味の無い『ストロングナイン・ドライ』を飲みながら、セブンポットは再びチャンネルを変える。
『大体ねぇ、政府の対応ですよ。死者も出てるのにスイートパラディン任せ。この二十三年何してたの? プリッキーに効く武器でも開発できなかったのって話でしょ』
ニュースバラエティ番組。文化人気取りの芸人が、知ったような口を利いている。
開発できるものか、そんな武器。プリッキーに対する魔導的な武器以外のダメージは、たとえ核兵器でも最小限となる。そもそも武器の研究を遅らせたのは、平和を愛する声の大きな市民達だ。
セブンポットは更にチャンネルを変える。
『おーっと、氷の女王赤原、ロールケーキ早くも十本目だぁ!』
大食い番組。下らないが、もっと下らないその他の番組よりマシか。
辛いスナック菓子と無味の缶チューハイを摂取しながら、セブンポットは胸焼けするようなその勝負を眺めていた。
……ロールケーキ。セブンポットは、もう一生食べられない。
スコヴィランの戦士となって数日後。セブンポットは『ストロングナイン 桃味』を盛大に吐き出してしまったことがある。
飲み過ぎではない。新しい体にとって、甘味は文字通り『毒』なのだ。砂糖だろうと合成甘味料だろうと、摂取すれば身体機能に異常をきたし、最悪死に至る。
穀物や肉、野菜なら食べられるが、味の無いガムを噛むような虚無感に襲われる。美味いと感じられるのは、辛いもの、もしくは無理矢理辛く味付けしたものだけ。
(自分の腹ば膨らますためだけに戦争ば仕掛けたとでも思っとぉとか)
カイエンの言葉を思い出す。ジョロキアが戦争に乗り出した理由を、身をもって理解できた、ということかもしれない。
「スイーツが懐かしい?」
背後から声。シャワールームからバスローブのキャロライナが現れた。
「別に。見るモン無かったから」
「それ、着てくれたのね」
キャロライナが言及したのは、セブンポットの格好である。
それは煽情的魔導士ローブであった。がばりと開いた胸元。袖が肩から分離しており、白い肌が覗いている。腰の部分でくびれ、スカート部には大胆なスリット。
……どこか既視感がある。セブンポットはそんな気がしたが、深く掘り下げなかった。少なくともこの時は。
「とってもよく似合うわ」
キャロライナは豹めいて近付き隣へ腰かけると、セブンポットの腿を数度撫でた。
「それにしても素敵よね、ファクトリー。お金さえ出せばあんな風に食べ物がいくらでもあって」
テレビ画面に視線を遣りながら、キャロライナが微笑む。セブンポットは一瞬苦い顔をした。
「あら、他意は無くってよ」
「ああそう」
「失ったものは戻らないわ。それよりこれからのことよ。ファクトリーとショトー・トードに、どれだけ酷い目を見せるか」
ごもっともな台詞だとセブンポットは思った。この組織がかつての恨みから戦っているのでなければ、なお説得力が――。
「ねぇ」
「どうしたの? セブンポット」
「アンタ達ってなんで戦ってるんだっけ」
前々から僅かに抱いていた疑問を、セブンポットはキャロライナへ投げかけた。
先日。聖騎士を継いだ小娘共と対峙した時。
(どうしてこんなことするんですか)
どうして。パンケーキが発したその疑問に、あの場にいる誰も答えなかった。
ネロが答えないのは分かる。だがカイエンなら、大見得を切って己が正当性を主張してもよさそうなものだ。
(――ジョロキア様の為、ヤクサイシンの為! 辛い菓子ば、お前らン血ぃば、不幸ば寄越さんねぇッ!)
二十三年前、人斬りの狂犬めいたカイエンが声高に叫んでいたのを思い出す。大人しくなったものだ。顔は変わらないのに年齢には逆らえないのか。
「ヤクサイシンの奴って、もう残ってないんでしょ? クソ泉も壊したって。大体カネあるならもう生きるのには困らないし。今ジョロキアって何が目的なの? っていうかアタシ一度もアイツに――」
「セブンポット」
返ってきたのは、冷たい視線と凍るような声だった。
「気を付けなさい。『ワタシ達』には『アナタ』も含まれてるのよ。当事者意識が足りないんじゃない?」
「……ご、ごめん」
セブンポットは忘れかけていた。キャロライナはセックスフレンドではなく、未だ底知れぬ上司なのだと。
セブンポットが謝ると、キャロライナは笑顔の仮面を被り直す。
「ふふ、それに『なんで』なんておかしな話だわ」
キャロライナは、セブンポットの耳にそっと口を近付けた。
「だって、『復讐』に理由なんて必要かしら?」
「……ううん、要らない」
ふたりはベッドになだれ込むと、じゃれ合いながら数度口づけを交わした。
「そんなことより。最近のスイートパラディン、どう思う?」
肩をはだけさせ、絹めいた肌を見せつけながら、キャロライナは問う。
「どうって?」
「アナタの視点から意見が欲しいのよ。あの子達の実力はどう?」
「全然」
セブンポットは即答した。
「コンビネーションが全然ダメ。力だけのひとりとひとりがパワーでごり押ししてるって感じで。集中力も無いし。まだ『武器』すら出せてないし。アレならアタシ達の方が全然――」
……セブンポットはそこで言葉を切った。
今何と言いかけた? 『アタシ達の方が』? 左隣に誰を思い浮かべた?
(ねぇ、ナナ)
忌々しい裏切り者の顔がフラッシュバックする。
(趣味はバラバラだし、ノリもちぐはぐだし、性格も真逆って程じゃないけど)
疎ましいほど眩しい笑顔で、こちらを向く少女の姿。
(でも、安心して背中を預けられる相手なんて、なかなかいないよ)
やめろ。セブンポットの心が叫んだ。
(ナナ。私達ずっと――)
「やめてっ!」
セブンポットは、思わずキャロライナの胸元へ顔をうずめていた。
「……セブンポット」
「やめて、やめて……」
「ごめんなさい、何か怖がらせちゃったのね。大丈夫よ、大丈夫……」
キャロライナはセブンポットの頭をそっと撫でた。憐みと慈愛に満ちた、今までに見せたこともない表情で。
「ふぅ、うぅっ」
「あっ、もう」
セブンポットは、キャロライナのバスローブを皮めいて剥くと、包まれていた豊満な果実にかじりついた。
「あうっ、積極的ねッ、さっき、したのに」
「ぷはっ、キャロライナだって……する気だったんでしょ。こんなカッコさせて」
「ふふっ、いいわ、来て、来てッ」
セブンポットはジュゾゾと激しい音と共にキャロライナの先端を口に含むと、舌先から魔導エネルギーを注ぎ込む。
「んはぁ、あぁぁあ!?」
キャロライナが歓喜にがくがくと震えた。こうするととても悦ぶのを、セブンポットは既に学んでいる。聖騎士として培った魔導エネルギー操作の技術が、こんな形で役に立つとは。
これだけで達するのではないかという程大袈裟に声を上げながら、キャロライナはセブンポットの頭を己が膨らみへぐいぐい押し付ける。
反対側も責めようとセブンポットが口を離し、銀色の橋を作った時。キャロライナは突如言った。
「ねぇっ、セブンポット」
「何?」
「見られながらしてみない?」
その提案は、一瞬セブンポットを当惑させた。
「……誰に? 嫌だよカイエンとかネロとか」
「まさか。あの子よ」
「アナハイム? ……でも今から呼ぶの?」
「あら、言ってなかったかしら」
キャロライナは上体を起こし、左手を天井へ向けた。
「こうやって利き手を握ってね、あの子の顔を思い浮かべながら『来なさい』って念じるの。すぐ来てくれるから。やってみる?」
「ああ……こう?」
セブンポットも寝そべったまま右手を掲げ、仏頂面のメイドを思い浮かべる。セブンポットが念じた僅か十秒ほど後、部屋をノックする音が聞こえた。
「……お呼びでしょうか」
「入りなさい、アナハイム」
便利なものだ。セブンポットが感心している間に、キャロライナがアナハイムを部屋へ招き入れる。
ドアを閉めて数歩踏み入れた召使いは、セブンポットの衣装をじっと観察しているようであった。
「ワタシが作ったのよ、アナハイム。どうかしら」
「はい、素晴らしい出来でございます」
「そうよね、セブンポットによく似合ってるでしょう」
「はい、よくお似合いです」
オウム返しめいて、アナハイムが答える。セブンポットの気のせいか、その視線は酷く見下げ果てたそれに思われた。
「じゃあ、アナタはそこで見てて頂戴。ワタシとこの子で遊ぶから」
「承知いたしました」
「よそ見したら駄目よ。ワタシ達が感じるトコ、全部見ててね」
「はい、拝見いたします」
アナハイムは当惑の様子すら見せず、あまりにも淡々と答える。まさか慣れているのか? 乗り切れずにいるセブンポットの上に、キャロライナが覆い被さった。
「さっきのお返しよ」
キャロライナはセブンポットの耳に喰らいつき、ズゾゾと下品な音を立てながらそれを舌で愛撫した。びりびりと走る刺激が、セブンポットの体に火を点ける。
「んぐぅ!? 駄目、駄目っ」
「嫌?」
「ほしい、して、して」
キャロライナの舌が、耳から首へ、首から鎖骨へ、もっと敏感な場所へ這って行くのを。アナハイムはただ、光無き目で眺め続けていた。二匹の獣がシーツを濡らし狂っていくのを、その瞳に反射しながら。
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