黄色い百合の花言葉 5






中から出て来たのは、黄色い百合の花が散る上質な便箋びんせん二枚だった。

封筒が簡素だったので、中身だけ高級だとアンバランスに思える。



便箋には男っぽい、あまり綺麗ではない文字が並んでいた。



「『初めまして。自分は貴方がよく使う駅付近で働いている者です。突然こんな手紙を、すみません。きっと……』」



きっと驚かせてしまいましたよね。



「そりゃ驚くよ。最寄駅が同じだけの人に自宅までストーキングされてたんだから」



「続きを」



「はぁ……。『貴方は目を惹く人だから、そして、心根の清らかな人だから、きっと、今まで沢山の素敵な女性に言い寄られたに違いありません。僕は男だし、容姿も良くない。こんな僕だから、貴方に想いを寄せたところで脈がない事はわかってる。でもこれだけは伝えたくて、この度、手紙をしたためました』」



萌が言った通り、この手紙は本当に最初の一通目らしい。

手紙の主が男だと言うことは、最初から薄々気が付いていた。


てっきり告白の言葉が続くのかと思っていた恵一は、手紙の先を目で追って、首を傾げた。





「『貴方をずっと見てきた僕だからわかる。貴方、同じ会社の男にストーカーされているでしょう』……ん? ストーカーはあんたじゃないのか?」



手紙の続きはこうだった。



− 黄色い百合の便箋なんて使っていますが、これは、黄色い百合の花言葉が示すような、「嘘」や「偽り」ではありません。

この便箋は、職場の備品なんです。バイトの子が知らずに買ってきてしまって、勿体無いので仕方なく使っています。


これから、僕が知り得た、貴方のストーカーの情報を、こうして手紙にしたためて、貴方に届けます。


貴方に警戒して欲しいから。


その見返りと言ってはなんですが、心のほんの一部だけでいいので、僕に感謝してください。

あと、僕の自作の詩を貴方に贈りますので、読んでくれたら嬉しい。

ストーカー情報のついでで、大丈夫です。


貴方は月夜に咲く 月下美人のように……









「……なんだこれ」

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