足 3
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萌と言い争いになった翌日は、朝からものすごい土砂降りだった。
午後からは雪になると言う予報通り、
現在、16時を回って
はらはらと雪がチラついている。
「うー、寒い。ほら石橋!とっとと選べ選べ」
腕を組み、寒さに首をすくませる上司を見て、恵一は心の中でため息を吐いた。
ぐるりと周囲を見渡すと、色とりどりの花が小洒落た鉄バケツやらガラス瓶やらに生けてある。
あちこちにそれが置いてあるので、
床や壁は一面、植物に覆われる勢いだ。
駅の改札を目の前にした半分屋外のような小さな花屋なので、この陳列も致し方ないのだろう。
身動きは取りづらいが、お洒落ではある。
顔を向ける向きによって、微妙に花の香りが違うのは嗅ぎ分けられた。
けれど、ではどれがどの花の香りかと言われると恵一にはさっぱりわからない。
そしてもちろん、花の名前もわからない。
「あの、すみません。取引先の方が入院中で見舞いに行きたいんですが、何の花が良いかわからなくて」
「ああ、そうだな。お前に聞く前に店長さんに聞くんだった。あの、
「部長、尿管結石までは伝えなくていいですから」
話しかけると、カウンターでリボンの整理をしていた女性が愛想良く顔を上げた。
すぐに手際よく数本の花をピックアップしてくれる。
「ふふ。赤色は縁起が良くないので避けて……そうですね。この辺りなんてどうでしょう。花瓶が無くても飾れるように明るい色の花を選んでアレンジメントにするのも良いと思いますよ。
あ、そうだ。生花のお持ち込みOKな病院ですか」
「あ、はい。それは確認済みです」
「じゃあ安心ですね。贈りたい方のご年齢や性別は……」
店員の手は止まることなく、数ある中から必要な花を選んでいく、
最終的には落ち着いた色合いの、品の良い花束が出来上がった。
「さすが、店長さん!いや〜石橋に任せなくて良かった」
「喜んでいただけてよかった!でも私、店長じゃなくてバイトなんですよ。店長は男性です」
良い仕事しますよと、バイトの女性が笑う。
「あ、そうなんですか」
「朝に仕入れがあるから午前中にそのまま居ることが多いですね。
もしまたお立ち寄りいただけるときは、ぜひ、店長の居る時間にも」
会計を済ませて店を出るとき、ふと気になる会話が聞こえた。
常連らしき女性客が話している。
「あの男の子、店長だったのね。てっきりあっちがバイトだと思った」
「男の子ってあの、背の高い子?」
「そうそう。ちょっと陰気な……ほら、手の平に切り傷のあった」
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