足 2
それからは家に着くまでお互いに一言も交わさなかった。
玄関に入ると恵一は、「お休み。早く寝なさい」とだけ言い置いて足早に一階の奥の部屋へと消えてしまう。
完全には距離を置かれなかったのが嬉しいけれど、
だからこそ萌は悲しく思った。
恵一は冷静な部分を保っているのに、
冷静な部分で以って萌を拒絶したのだ。
自分が発した言葉に萌がどれほど傷ついたか、恵一はまるで気づいていない。
自分の言い分ばかり正しいと思っているような背中だった。
そうじゃ無い。そうじゃ無いのに……。
消したくても消えないこの力が大切な人の役に立つならば、
今のありのままの自分でも良いのだと、最近ようやく思えるようになったのに。
心配してもらえるのは嬉しい。
けれど、自分になら解決できるかもしれない危険をそのままには出来ない。萌だからこそ気付く危険があるのも事実なのだ。
「自分が持つ力の全部で、誰かを助けたいって思うのは普通のことじゃねえのかよ。兄さんが怒ってる理由、ただ俺を心配してるってだけじゃないよな。……俺が普通じゃ無いからだろ」
傲慢ってなんだよ。
兄さんにだけは言われたくなかった。
ただ信じてほしかったのに。
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